第21話

 火口、といってもすぐ足元に溶岩があるわけではない。それははるか下方に見えており、ソーライたちが降り立った岩場からはいささか距離がある。

「金属だけで構成されているのかと思ってたけど、ちゃんと岩石も存在してるんだな」

 辺りの様子を伺いながらソーライが足元の岩場を踏みしめる。

 ユーリヤはその辺に転がる小さな石を拾い上げた。

「見た目よりも軽いのね。これがメイケーラの石かしら」

「お前、なんでも知っているわけじゃないんだな」

「通常はデータバンクにアクセスできるけど、今は通信が遮断されているから。内蔵メモリの知識だけで動いているわ」

「ふうん、万能ってわけじゃないんだな」

 ソーライは意外そうな顔をしながら言葉を続けた。

「メイケーラの石は赤く透き通っているらしい。ユーリヤが今拾った石は噴石が冷たくなったものだよ。飛び出したばかりだと熱いから気をつけて。熱は感じないかもしれないけど、身体が溶けると大変だろ」

「そうね。手掌しゅしょう部のサーモセンサーによると、この石は現在七十二度よ」

「早く投げて!」

 ソーライが慌てて声を荒らげるので、ユーリヤは持っていた石をぽいと転がす。

「大げさね。そんなにやわではないわ」

「仕様が分からないんだから仕方ないだろ。噴石に気をつけながら岩場を伝って火口に近づこう」

 ときどき飛んでくるからね、とソーライは遙か足元のマグマを指さす。

「あの溶岩の近くにあるのね」

「シュラーからもらった情報によるとそうだ。地表を覆っていた金属とマグマの成分が高温状態で反応してできた石らしい」

 手元の端末を見ながらユーリヤに説明する。好事家こうずかたちの間で出回っているものは噴火した際に飛び出したものがどこかへ漂着した石だろう。ここへ取りに来るヒトはあまり居ないはずだ。標準的なヒトからすればこの場所は少し熱すぎるし、未登録のガスが存在していて近づくには勇気がいる。ソーライとユーリヤだからこそここに立てているとも言える。

 岩場に降り立ったときに、ユーリヤから何かを振りかけられたのをソーライは思い出した。ガスの影響がないのはそのお陰だろうか。

「そういえば、降りたときに何を振りかけてたんだ?」

「花粉よ」

「なんで⁈」

 予想もしなかった回答にソーライは声を上げる。花粉がガスを退けるなんて話は聞いたことがない。するとユーリヤはすぐに種明かしをしてくれる。

「ナノマシンを放出して花粉に付着させ、貴方の体表をおおって膜を作っているの。ブラックホールを通過するときに使ったでしょ」

「引力を反転させてガスを押し返しているってことか」

「そういうこと」

「でも花粉は必要なくない? 俺が花粉症じゃないから良かったものの」

「動力源にちょうどいい有機物なの。バラが何本が手に入ったし」

 ユーリヤの言葉に、合い言葉の最後に毎回バラを一本渡していたことをソーライは思い出した。まさかこんなところで役に立ってしまうとは思わなかった。

 ソーライが感心していると、ユーリヤは「さて」と話題を変える。

「ではメイケーラの石の場所を視認情報からサーチしてみましょう。まずはマグマの構成要素を——」

「待て待て、そんなことできるの? 万能じゃん」

 ソーライは先ほどの言葉を撤回して手のひらを返したのだった。

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