第18話

 考え込むシュラーの向かい側でソーライが口を開いた。

「そういえばサトーラ内で兵器登録を抹消する問題も残ってるだろ」

「ああ。そっちはもう片付いている」

「えっ、そうなの⁈」

  驚いて身を乗り出したソーライに、シュラーは淡々と返す。

「監査委員会に案を提出していたが、昨日返答があった。アンドロイドから爆発物を取り出したあと、彼女についていた位置情報システムと一緒に爆破処理する予定だ。位置情報は市街地を示すように数値をずらし、実際は誰もいない場所で爆破させる。なおかつサトーラには誤爆で街が大破したにせのニュースを流す予定だ。これはヴィオラ、電波局双方に話がついている。その後は爆破物の破片からサトーラ軍と断定したとして、管理局が軍に監査に入る手筈てはずだ」

「なーんだ、俺の出る幕ないじゃん」

「最初から潜入させるつもりはないと言っていただろう」

 シュラーはやれやれとため息をつく。

「でもさ」

 呆れるシュラーを見ながら、ソーライは明るめの声で返した。

「ユーリヤから爆破物を取り出してから爆破って、監査委員会もユーリヤは残しておく方針で考えてくれてるってことじゃない?」

「ああ、そこは保留にしてもらったのだ。処分の必要がない結果も模索すべきだと思ってな」

「シュラー!」

 その途端、ソーライはシュラーに飛びかかろうとする。

 シュラーは慌てて後ずさった。

「やめろ、抱きつこうとするんじゃない」

「俺、シュラーは女の子をいじめるような奴じゃないと思ってたんだ!」

「そういう問題ではない。そもそもアンドロイドはデリケートな問題だと言っている」

 ソーライを落ち着かせて元の席につかせると、シュラーも座り直してコーヒーを一口飲んだ。

 それからまた難しい表情を浮かべる。

「本来なら、彼女が無害であることが証明されれば俺の監視化で雑用の仕事を、とでも言うつもりでいたのだ」

「でも、無害……ではなさそうだな」

「ああ。彼女は実在した人物の頭脳が基盤にあり、なおかつ現在よりも遙かに発展したロストテクノロジーを保持している」

「それって、監査委員会でも知られたら逆にまずいんじゃないの。完全に研究所送りになりそうじゃん」

「研究所送りどころか、争いの火種にもなりかねない」

 箝口令かんこうれいを敷いたところで、どこからか情報が漏れかねない。現代科学よりも発展した技術があると知れば、みな彼女を欲しがるだろう。

 シュラーは長いため息をついた。

「しかし隠したままでいるのは不可能だ。我々が今こうやってブラックホールを超えようとしていることにも説明がつかなくなる」

「何か良い案はないの?」

「ソーライこそ良い案はないのか。サトーラのスパイをやっていたのだろう? あざむけるような良い案を考えてくれ」

「そんなこと言ったって……」

 ソーライも釣られて長いため息をつくのだった。

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