第10話

 前回と同じ宿の一室。

 ソーライから連絡を受けたシュラーは合流するなり真っ先に告げた。

「優先すべき事項は爆破機能の停止だ」

 コーヒーショップの袋から飲み物を取り出していたソーライは、一瞬ぴたりと動きを止める。

 それからシュラーの前にコーヒーを置くと口を開いた。

「そういうのって、もっとでかいトコがやるもんじゃないの?」

「でかいトコ、とは」

「なんか軍隊みたいな……、ないの? 兵器を処理する銀河規模の武闘派組織」

「それが輸送管理局だが」

「……」

 ソーライは閉口した。

 輸送管理局という名前の響きから、情報管理とか輸送物監査とか文系なものを勝手にイメージしていた。実際、今まで補助をした仕事は輸送物の監査だったのだ。

「輸送管理局の仕事はすべての安全な航路を確立しそれを管理することだ。そこに兵器が含まれれば当然排除する必要があり、それは我々の仕事だ」

「いや別にやりたくないわけじゃないんだ。むしろその方が俺向きな仕事だとは思うけど」

 ソーライはそう言いながら語尾をにごす。素直にうなずけない理由はただひとつ、恩人であるシュラーに危険なことをさせたくないだけだ。

 そんなソーライなど気にもとめない様子でシュラーは口を開いた。

「とにかく爆破指令の電波を受信するのがいつか分からない以上、できるだけ早く停止させたい」

「止めるって言っても、下手に破壊すればその場で爆発を引き起こすんじゃないかな」

「爆発の範囲は半径五百メートルだったな」

「範囲が狭くても火力が高い可能性もあるだろ」

 わざわざヒトの生活圏のど真ん中に潜り込ませるんだから、とソーライは言葉を繋げる。

 シュラーはしばらく無言で考えあぐねていたが、ひとつの提案をしてきた。

「誘発システムを解除するか」

「それにしたってまずは解析が必要だろ。いっそのこと俺が強引に街から連れ出して誰もいないところで壊すか……」

「ソーライ。彼女を連れ回せるか?」

「位置情報システムは搭載されていると思うけど」

「位置情報か……」

 シュラーはそう呟くと、ソーライの方に向き直って言葉を続けた。

「知人に研究者がいるんだ。そこまで連れて行ければ、爆弾の解除ができるだろう。ソーライ、彼女を説得することは可能か?」

「シュラーの見立てでは、彼女の爆破機能を阻止できるんだな?」

 ソーライの問いかけにシュラーは力強くうなずく。

「そのためには彼女に我々を信用してもらい、まずは解析者の元に連れて行く必要がある」

「位置情報システムはどうするんだ?」

「ダミーを作ってそちらにシステムを移行させよう。それくらいなら俺でもできる」

「わかった」

 ソーライは頷いた。その作戦ならシュラーをいくらか危険な目に遭わせずにすみそうだ。

「ソーライは二、三日の間に彼女を懐柔かいじゅうしてみてくれ。俺はその間にヴィオラ滞在期間の延長手続きをする」

「明日また接触してみるよ」

「もう少し調査が進んだら彼女のことも他部署に報告しよう。そうすれば我々も動きやすくなる。移動船にお前の部屋も用意してやれるぞ」

「俺は倉庫が気に入ってるんだけど」

 ソーライは苦笑いをこぼしながら、手元のコーヒーを飲み干した。

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