第11話
その日は雨が降っていた。
ソーライがユーリヤと最初に接触してから一週間が経とうとしていた。
シュラーと打ち合わせをした翌日、早速ソーライは彼女と接触を試みた。
体内の爆弾を解除したくはないか、と一生懸命に説いた。アンドロイドにヒトのような心があるのかどうかは分からない。しかし生存本能のようなものはあると思ったのだ。
次の日もバラを彼女の前に落とした。その次の日も、その次も。
その結果が今だ。
研究所が借りたユーリヤのための小さな部屋に、ソーライとシュラーは招かれている。彼女に感情があるのかは分からない。しかしソーライの説得に応じたのは紛れもない事実だ。
「雨は良いわね」
ユーリヤは窓辺に座ったまま、外を眺めながら呟くように言った。彼女の首筋からは細いコードが伸びてパソコンと繋がっている。
室内には雨の音と、カタカタとキーボードを
なにもすることがないソーライは、ユーリヤの独り言に返事をする。
「雨が好きなの?」
「いいえ。アンドロイドは雨を嫌うわ」
「じゃあ出発の日を改めた方がいいかな」
「いいえ。この後も雨は降り続ける。出るなら今日よ」
嫌いなのになんで? とソーライは小首をかしげる。
すると作業が一段落したらしいシュラーが顔を上げた。
「なるほど、監視者の目を欺ける」
抽出したシリアルナンバーが内蔵されたチップを掃除ロボットに取り付けながら、シュラーは言葉を続ける。
「雨の日にアンドロイドは屋外へ出たがらないのだろう? このダミーが動くのは室内だけだ。雨が降っているなら連日室内にいても違和感がない」
その言葉を聞いてユーリヤが満足そうにうなずく。
「シュラーは頭がいいのね。ソーライは駄目だわ」
「一言多いんだよ」
ソーライはじとりと少女をねめつけた。
それからシュラーが触っている掃除ロボットに目を向ける。
「まさか位置情報システムを掃除ロボットに搭載するなんてね」
「挙動がランダムかつ自己充電できる。うってつけだろう」
シュラーはそう言いながら再びパソコンを操作する。
「こいつの位置情報を統括機関のシステムで受信できているか確認したら、すぐにでも出発しようか。行き先はキュウェラだ」
「キュウェラ……隣りの惑星ね。私のコンテナは用意されているのかしら」
ユーリヤのその言葉にソーライは驚いて声を上げた。
「コンテナ⁈ 女の子がわざわざコンテナに入る必要ないでしょ!」
「忘れないで。私には爆発物が内蔵されているわ。宇宙空間にはいろんな電磁波が溢れていてどれに反応するか今は分からない。私はそれらを遮断するコンテナに入れて運搬されるべきよ」
彼女は人ごとのように淡々と言葉を発する。「でも……」と言葉を濁すソーライの横で、シュラーはパソコンをぱたんと閉じた。
「安心しろ。運送管理局の頑丈なコンテナを準備してある」
シュラーの言葉に、ユーリヤはくるりとソーライの方を向く。
「やっぱりソーライは駄目ね」
「そこはシュラーを褒めるだけでいいだろうが」
ソーライはため息を落とした。
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