第8話
ソーライは研究所を連日見張っていた。
(やっぱり
最初は近くのニューススタンドまで、次は噴水のある公園まで、その翌日は公園の先にあるパン屋まで。歩行バランスの確認と、人間の生活に紛れ込めるかをテストしているのだろうか。
見たところ彼女がロボットだと周囲にはバレていないようだ。引きこもりの金持ち美少女がリハビリで外出しているようにしか見えない。
(偶然を装って接触を試みたいところだけど……)
話しかけるのは簡単だ。道に迷ったふりをして声を掛ければいいだけだ。
ただし相手はロボット、一度こちらの存在を認識されればごまかしが利かない。それに彼女の記憶データを研究者たちがチェックしている可能性もある。
最初の接触が最後のそれになりかねないので慎重にいきたいところだ。
(今の歩行テストが終わって研究所とは別に住居でも出来れば、もっと接触しやすいかなあ)
しかしあまり悠長に構えている時間もない。シュラーの出張期間が終わればそこがタイムリミットだ。
建物の屋上に身を隠していたソーライは、その裏路地にひょいと飛び降りた。
目標の少女は現在二百メートル先を公園方面に向かって歩行中。ソーライも公園に散歩に行く風体で、道すがら花屋で白いバラを三本買いつつ少女の後を追った。
接触は慎重に、と思ったが前言撤回だ。
(それに、彼女がサトーラ軍で作られたアンドロイドなら……)
時間は有限だ。ソーライはある可能性に賭けてみることにした。
同じサトーラ軍に所属していなければ、いや、同じように諜報などで星外に出なければ知ることのない方法がひとつだけあった。
それがさっき買ったこの白いバラだ。
彼女の正面に回り込んだら、それとなくぶつかってバラの花束を落とす。もし彼女がそれを知っているならば、三本の白バラを見てこう言うだろう。
「ごめんなさい。大事なお花なのに」
そう返ってきたら更に言葉を返す。
「お気になさらず。立ち止まって薔薇の香を楽しむタイミングが得られました」
それを聞いた彼女がサトーラ軍の一員であるならば、次のように言うのだ。
「ならば私は赤き星の赤土で白き聖花に清らな水を捧げましょう」
果たして彼女はその言葉を口にした。
ソーライはその『合い言葉』に
ここまでが一通りの流れだ。すべてが合致してようやくお互いが同じ軍に所属していることを把握する。
その少女とソーライは黙ったまま目を合わせると、互いににこやかに微笑んだ。
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