第7話

 その夜、シュラーとソーライはロゼオ区で無事合流を果たした。

 どこかで食事をしながら情報交換とも思ったが、盗聴の可能性も考えて手頃な宿を取った。どちらにしろヴィオラではシュラーの分の宿しかない。ソーライのための宿泊場所が必要だったので一石二鳥だ。

 ミニテーブルの上にテイクアウトの食事を置くと、二人は向かい合わせに腰を下ろす。こうやってじっくり顔を付き合わせるのは実に一週間ぶりだ。

「それで。張り込みの成果はあったか?」

 大きめのハンバーガーにかぶりつきながらシュラーが尋ねる。

 同じように大口を開けていたソーライは、もぐもぐごくんと一口食べてからこくりとうなずいた。

「まず、荷物が運び込まれたときに守衛は『ロボット』と連絡していた」

「人ではなかったか」

 シュラーもどことなく安堵している。その相づちを聞きながら、ソーライは言葉を続けた。

「それから二、三時間くらい経つと彼女が出てきた」

「彼女?」

「そのロボットだよ」

「ふむ。ロボットを建物から出したのか」

「建物どころか、門の外に出たんだ」

「門の外に?」

 ソーライの報告にシュラーは眉をひそめた。

 荷物が到着してからの二、三時間はおそらく性能を確認していたのだろう。しかし外に、しかも敷地の外に出る意味が分からない。

 ソーライはこくりとひとつ頷く。

「白衣を着た男と一緒だった。二人でしばらく研究所の前を行ったり来たり歩いて、それからまた建物の中に戻っていった」

「……市井しせいに出すつもりなのかもしれないな」

「どういうこと?」

「その白衣の男はおそらく歩行状態を確認していたのだろう。施設内の平坦な床と外の石畳ではバランスが微妙に変わってくる」

「つまり、そのロボットを街の中で普通に生活させるってこと?」

 ソーライの問いかけに、シュラーは小さくうなる。市中で生活する理由を考えているが、思い当たるのは諜報くらいなものだ。

 答えがでないので、シュラーは話題を変えた。

「そういえばプターラ星立研究所について少し調べたぞ」

「どうだった?」

「なりすましかとも思ったが、惑星プターラが建てたもので間違いないようだ。この星で採取される鉱物や草花について研究している。自然物から抽出したもので薬を作っているようだ」

「製薬会社か。ますますロボットの存在が分からないね」

 ソーライの相づちにシュラーは頷いて言葉をつなげる。

「治験なら生身の人間でなければ意味がないしな」

「危ない場所にある自然物を採取するため、とか?」

「そうだとしても外見を人に寄せる必要はない」

 そもそも、アンドロイドにしろヒューマノイドにしろ、外見を人間に近づけることは違法である。それはヒトクローンの禁止に似たものがあった。人の世を混乱させ脅かすものだという共通認識があるためだ。

 人型ロボットは完全に禁止ではないが、無機物だとはっきり分かるような外見にしなければならない。しかしコンテナの中で見たものは、人間かと疑うほど精巧に造られた少女だった。

 ひとまずソーライは引き続き研究所と少女の監視をすることになり、今日の報告会はいくつかの疑問を残したまま終了した。

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