第5話

 シュラーの仕事を少し説明しておいた方がいいだろう。

 彼は星間輸送管理局をまとめ上げる若き局長代理だ。局長が遠方の銀河へ出張中のため、代理であるシュラーが近隣の惑星を視察して回っている。各惑星に配置されている管理局の業務進行を確認し、改善するのが彼の主な仕事だ。

 ならば宇宙船の中で今なにの調査かと言えば、抜き打ちの監査などではなく単純に視察先への移動中だ。その途中経過でソーライがたまたま怪しげなコンテナを見つけただけのことである。

 そのコンテナが貨物室から運び出されるのを確認して、ソーライもするりと船の外へ出た。

 宇宙船は無事に航行を終了しヴィオラに到着した。

「こちらソーライ。対象はロゼオ区方面の貨車に搭載。追尾する」

<気をつけろ>

「りょーかい」

 シュラーへ手短に連絡を済ませたソーライは、周囲をささっと確認すると積荷の上にひょいと飛び乗った。積荷を覆う布の間に滑り込む。

 こういうときはサトーラで受けた訓練が役に立つ。軍にいて良かったと思ったことは少しもないが、こうやって能力を活かせているのだから過去の出来事も悪かったわけではなかったということだ。

(あのとき拾ってくれたシュラーに感謝だな)

 積荷の上の居心地を確かめながらソーライは改めて感謝した。

 三年前のあの日、貨物室に潜んでいたソーライはいわゆる御用改めに踏み込んできたシュラーに見つかった。ソーライを最初に見た彼はひどく慌てていたのを覚えている。それはスパイが潜入していたからではなく、マイナス百度の貨物室に人間が閉じ込められていると思ったからだ。

 ソーライはといえば、自分でも驚くほど冷静だった。星々に潜んでは軍へ情報を流していたのだ、死罪は確定に違いない。しかし周囲から仲間が減るたびに、自分も長くは生きられないと悟っていた。シュラーに見つかったときも、死期が半年縮まっただけだと単純にそう思ったものだった。

 その後、サトーラの諜報員だと正直に白状したらしこたま怒られた。スパイであることを追求されたのではない。己の命を軽んじてはいけないと説教されたのだ。間諜かんちょうを心配するなんておかしな奴だとソーライは思った。

 それからシュラーはソーライをにせの葬儀で荼毘だびに付した。貨物室で身元不明の凍死体が見つかり無縁仏として葬ったので心当たりのある各惑星機関は名乗り出るように、と情報を流したのだ。当然、サトーラが「うちの間諜です」と名乗り出るはずもなく、ソーライは身元不明のまま死んだことになった。

 それから丸三年が経ち、ソーライは今の居住場所で市民権を得た。そこで今回の初仕事というわけだ。

 回想にふけっていたところで、貨車がガタンと揺れて動き出した。

(ロゼオ区か……金持ちの多い区画だったな)

 人か人形か、はたまたアンドロイドか。この荷物を受け取る人物はどんな貴族様なのだろうか。

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