第4話

「差し押さえは簡単だが……こちらも非合法で荷物を確認している手前、今すぐここでコンテナを取り上げるのは難しいな」

 シュラーはしばらく考えあぐねていたが、良い案が思い浮かばないといった具合にかぶりを振った。

 当然、宇宙船から運び出された直後に差し押さえるのも不自然だ。積み込み時には確認していなかったのに、なぜ降ろしたばかりの荷物をいぶかしめるのかと逆に問われてしまう。

 どうしたものかと考えているところで、ソーライが通信端末をひらひらとかざしてきた。

「送り元と送り先の住所画像は控えてあるよ」

「それは助かる。こちらへ送ってくれ」

「了解」

 ソーライはすぐさま画像を転送する。

 シュラーも端末を取り出すと、届いたばかりの画像を確認した。赤いラベルの伝票に書かれた送り元の住所が写っている。

 細かい住所は詐称できてもこのラベルだけはごまかせない。ゆえにサトーラから出荷されたのは確かだ。

「送り先は……サトーラの大使館宛ではなさそうだな。ヴィオラに到着する前に住所を調べておこう。デタラメな可能性もあるが」

「でも送り先ははずだよね。人が住める場所でなくとも、受取にくる人物は必ずいる」

「ああ。向こうに着いたら追跡を頼む。俺は管理局の仕事があるから自由には動けまい」

 シュラーの言葉にソーライはうなずいた。それから「あっ」と声を上げる。

「いっそのこと、一緒にコンテナの中に入ってようか?」

 あっけらかんとした物言いをするソーライに、シュラーはその額をぺしりと弾いた。

「いった!」

「危ない真似はするな」

 ソーライは少し赤くなった額を押さえながら、残念そうに眉を寄せる。

「でも箱に入ってれば相手のところに忍び込むのも簡単だし……」

「そこまで命を賭ける必要はない。この荷物とソーライ、どちらが大切かと問われればお前を選ぶのは当然だろう」

「……シュラーってそういうの平気で言うよね」

 少し赤面したソーライに、シュラーはしかつめらしい顔で口を開いた。

「本当は貨物室に忍び込むのも反対だったのだ。一緒に客室を取るべきだった」

「でもシュラーの同行者に登録したら、俺も自由に動けなくなっちゃうじゃん」

「だから仕方なくお前が提案する方法を採ったのだ。でなければ、いくらお前が可能だと言ってもマイナス百度の部屋になぞ……」

「わかった! わかったから! 危ない真似はしないから!」

 ソーライは慌てて言葉をさえぎった。これ以上会話の主導権を握らせていたら小一時間ほど説教が続きそうだ。

「……分かったならいい」

 少し不服そうではあるがシュラーは落ち着いた。

「じゃあ俺は一旦貨物室に戻るね。また何かったら連絡するよ」

「ああ。……本当に行くのか?」

「シュラー、お前……ペットホテルに犬を預ける飼い主みたいな顔してるぞ」

「当たり前だろう! 俺は!」

 シュラーがまた何か言いかけたので、ソーライは慌てて天上の通気口裏にひょいと飛び乗ったのだった。

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