第3話

 すでにヴィオラに向かって航行を始めた宇宙船の中。

 貨物室から抜け出したソーライは、天井の通気口から室内の様子を伺っていた。

 中にはどうやら一人。燃えるような赤い髪に、吸い込まれそうな赤い瞳の青年が部屋の真ん中に立っている。

 彼はどうやら同じ室内にいる犬に興味があるようだ。触りたいのを堪えたような顔でじっと犬の挙動を観察している。かと思えば手を伸ばしてすぐに引っ込める、そんな動作を繰り返している。

 ソーライは小さく笑うと、その通気口からひょいと飛び降りた。

「シュラーは相変わらず動物が好きだなあ」

 その声に赤髪の青年は振り返る。それからしかつめらしい顔で「ソーライ」と名前を呼んだ。

「こんな場所を指定するとは、俺を試しているのか」

「あはは、違うって。単にこの部屋にはサーモセンサーがないからだよ」

 ソーライがシュラーを呼び出したのは、貨物室隣りの家畜やペットが載せられた部屋だ。船内はサーモセンサーで乗客管理をしているが、この部屋にはその機能がない。

 なにせどの星間飛行も日数がかかる。運んでいる家畜が輸送中に出産する可能性もあるのに、生まれた尊い命を侵入者と間違えて毎回警報を鳴らされては仕事にならないというわけだ。

 おかげで侵入者ソーライはこうやって室内に降りられる。

 ちなみに客室側から家畜貨物室への出入りは自由。ペットが心配で顔を見たいという者もいるからだ。必要があればドッグランで遊ばせることもできる。

「しかし……本当にマイナス百度でも平気なんだな」

 シュラーはそう言いながらソーライの頬に手を伸ばした。体温を確認したのだが、今は通常のヒトの温度と大差なさそうだ。

「檻の中の犬を触れないからって俺に触るのやめなよ」

「お前はイヌみたいなものだ」

「そうですか」

 ソーライは肩をすくめて苦笑いをこぼすと、すぐに懐から機械を取り出した。通信から写真撮影や編集、文章作成まで出来るいわば小型のコンピュータだ。

 その機械で先ほど撮った貨物の画像をシュラーに提示した。

「貨物の中にサトーラのものがあった」

「中身は確認してみたのか?」

「したけど……」

 シュラーの言葉にソーライは言いよどんだ。無言のまま次の写真を提示する。

 そこには雪のように白い肌をした少女が写っていた。プラチナブロンドの長い髪にふわふわのドレス、まるでおとぎ話の絵本にでも出てきそうだ。目を閉じて眠っているのかそれとも……。

「貨物の中身はこれか」

 シュラーは確かめるようにソーライに質問した。ソーライは無言のままうなずく。

「彼女が普通の人だったらこれは死体だろうが、サトーラ人なら生きている可能性が残る。人でなければ精巧に作られた人形かアンドロイドってとこだな」

「人か、アンドロイドか……。人形以外はいずれも違法だ」

「人形であることを願いたいね」

「ほかにコンテナの中に入っているものは?」

「これだけ」

「彼女を運ぶためだけの箱、か……」

 ソーライの言葉にシュラーは考え込んだ。

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