独立
小学2年生になったころだと思うが、父親が朝と晩に家にいることが多くなった時期がある。
その後の日曜日、休校のときにわかったのだが朝と晩だけではなく一日中家にいる日もあった。
その頃、父親は居酒屋で日曜日も仕事をしていたので幼い私でも気にはなっていた。
当時の私は仕事ということが、よくわかっていなかったのだが父親は会社を辞めたから自宅にいたのだ。
少しの時間が経過すると一連の事がわかることになる。
父親の「独立」だった。
自分で小料理屋という一国一城の主になった瞬間である。
小料理屋は中心街から少し外れた場所で、カウンターに8席、座敷席が1テーブル程度のこじんまりとしたお店である。
母親も会社を辞めて夫婦で店をはじめたのだ。
このことがきっかけで、私と姉の生活は全て変わっていく。
良くも悪くも全てが一変した。
夜に両親が共働きとなったため、朝は両親が寝ていて夜は、幼い私と姉で留守番することになった。
現在では考えられない生活の始まりである。
それでも寂しいと感じたことなどない。
そもそも両親とは、ほとんどスキンシップのようなふれあいは皆無であったから、両親との生活自体の変化あまりない。
変化があった点もある。
それは、すべての事を自分自身で完結しなくてはならないことだ。
父は昼前には仕入れと仕込みの為、家を出ていくのだが、母親は夕方まで寝ていた。
両親の店は月曜日を休日に設けたのだが、その日は学校である。
そうなると親は洗濯をする時間はない。
もちろんご飯を作る時間もない。
つまるところ、親が子供にやるはずの通常業務全てを、子供がやることになったのだ。
それだけならまだ良い。
私は学校から帰ってくると、母親の好きな菓子パンを買いに行き、お風呂を沸かし、お茶を入れ、母親を起こす係になったのである。
私はまだ小学2年生である。
私の姉は全くと言ってよい程「マイペース」な性格であったために、学校から早く帰ってくることができなかった。
その事で確実に言うことを聞く私が奴隷のように扱われ始めたのだろう。
2日に一度おつかいに行き、毎日お風呂を沸かし、お茶を入れ、母を起こす・・・。
この生活は中学3年生まで続くことになる。
しかし良い点もあった。
冷蔵庫にはたくさんの食材が保存されるようになったのだ。
どうやら私が「貧乏」と思っていたのは、父親が独立するために生活を切り詰めていた結果であったのだ思う。
晩御飯も姉の分まで私が作り洗濯も私がやった。
姉はマイペース以外にも面倒くさがりでもあり、口癖は「ついでに私の分(姉)もやって」であった。
それでも好きな時に好きなテレビが見られるし、好きな時間にご飯が食べられる。
日々の奴隷より、そのことが何より楽しかった。
普通ではない家、家族の有り様なのかもしれない。
当時の私は疑問に思ったり、考えたりする能力が圧倒的に低かったのだと思う。
このような生活をしていく中で、私と姉は時が流れるにつれ悪い方向に成長していくことになるのだが、その話はまだ少し先の話になる。
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