第十五話 復活

 赤い光が幻造の元へと流れ込んでいく。これは二人に残された最後の力だった。


「やめろ、やめろ! やめろ!! やめろおおおおおおおお!!」


 力が流れ込めば流れ込む程、幻造の中にいる守の存在が大きくなっていく。


『温かいなぁ……』


 心の奥で眠っていた守は、その温かい光に包み込まれ、目を覚ましていく。


 守はこの光に包まれていく中で思った。


『俺はどれだけみんなに助けてもらってきたのだろうか』


 思えば母親に噛まれゾンビとなってからナナコの死、幼馴染との決別。新しい出会い。


 短い時間ながらに人生において一番濃い経験をしてきた。


 その中で自分は三人に何か返してこれたのだろうか?


 今、込められたこの気持ちにどれだけ応える事が出来ていたのだろうか?


『くそお! くそお! 力が入らぬ!! せっかくの肉体が! 不老不死の肉体が!!』



 くだらない。



 瑠璃の祖父から流れ込む感情は、三人の温かい気持ちと比べるとちっぽけで、小さく感じた。


『俺の中で永遠に眠っていてくれ』


 守の存在が大きくなっていくのに対し、幻造の存在が徐々に小さくなっていく。


 もはや一体化してしまった幻造の存在を守は消し去る事は出来ない。


 だが、今の守であれば幻造を完全に抑え込む事は決して難しくはない。


『こ、こんなところで儂の野望が潰えるというのか……。儂はどこで間違えたのじゃ?』


『初めから間違ってたんだよ』


『あぁ、あぁ……』


 こうして幻造は守の奥深くに眠るように沈んでいった。









 目を開けた守は、周囲を観察する。目の前には瓦礫となった瑠璃の屋敷、力を使い果たして倒れている仲間達。そして真正面にはこちらを無表情で見つめる遥がいた。


「幻造は負けたか」


 淡々と訊ねる遥。


「あぁ。俺の中で眠っているよ……」


 不思議と守の中で怒り、悲しみの感情はわいてこなかった。凪のように穏やかな表情で遥を見つめると、遥は諦めに近い、そんな表情で守を見つめ返した。


「そうか……。なぁ、今のお前はまさに不老不死なわけだが、どんな気分だ?」


「不老不死といわれても実感がわかないな。まぁこの身体については追々考えるよ。それより……今は決着をつけよう」


 守のその言葉を聞いて、遥は猛獣のように嗤った。


「あぁ、そうだな。今、私はわかったぞ。今、この瞬間こそが待ち侘びた瞬間だったんだな。武の真髄がすぐそこに見える」


「遥さん……」


 これ以上話すことはないと言わんばかりに遥が走り出す。それに合わせて守も動き出した。


こうして最期の戦いは始まる。



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