第十四話 瑠璃の作戦

 『朱羽』を弾き飛ばしたところで遥は疑問に思った。


 ? と。


 そしてその答えはすぐに瑠璃によってもたらされた。


「あなたにはこんなもの、でしょうね? だけど、おじい様にはそうでもないみたいよ?」


 瑠璃と守の力の混ざった『朱羽』は、幻造に突き刺さっていた。


 その姿を見て遥は驚く。確かに『朱羽』は強力な技だ。だが、幻造は遥には及ばないがそれに近い強者だ。何の抵抗もなく攻撃を受ける事は普通であればありえない。


「なっ!?」


 そういえばここまで幻造が一言も話していない事に遥は今頃になって気付いた。


 実は、この会話を始めた段階で瑠璃は幻造の中にいる守に向かってテレパシーを送っていた。これも共鳴による力の影響と、一度表に守が出てくる事で出来た結果だった。それによって遥に知られずに守と瑠璃は話し合いが出来たのだ。そして瑠璃からの指示で守は幻造から身体を取り返すのではなく、動きの阻害する事に集中させた。


 そしてそれと同時にナナコにもある事をお願いしたのだ。


 だが、動きを阻害させる事もナナコにお願いした事にも時間がかかる。


 


 そして準備が出来たその瞬間に瑠璃が動き出した。それと同時にナナコも動き出したのだ。


 遥は気持ちよく喋っていたつもりなんだろうが、実際のところは喋らされていただけだ。


 そして刺さったのと同時にナナコも動き出した。


 幻造の足元からはいつの間にかこれまでで一番太く、硬い鎖が地面から生えてきていた。


 『朱羽』と守の力で身動きがかなり制限されていた今の幻造ではナナコの鎖を避ける事は出来なかった。


 そして鎖に掘らせて潜っていたナナコは、鎖で拘束するのと同時に、表に出てきて幻造に抱き着いた。


「なぜ、そこにお前がいるのだ!? ではあそこにいるのは??」


 遥の言葉と同時にナナコのカタチをしていたモノは元の血へと戻った。ナナコの『血操』で擬態していたのだ。


「甘い! まだ私がそいつを片付ければ終わりだ!!」


 遥はナナコの元へ向かう。だが、その瞬間に脇腹に今まで感じた事がない程の衝撃を受け、瓦礫の山へと吹き飛ばされた。


「ボクを舐めないでほしいなっ……!!」


 遥を殴ったのは未羽だった。三人のテレパシーを聞いて意識を取り戻したのだ。そして最後の力を振り絞り、取り乱していた遥へ一撃をくらわせる事が出来たのだ。


 遥が吹き飛んだのを確認すると、瑠璃も幻造の元へと飛んで行く。当時の予定では瑠璃が足止めをして、ナナコ一人で幻造に対処してもらうつもりだったが、寸前であったが、未羽の反応があった。おかげで瑠璃も幻造に対処出来るようになったのだ。


 それでも時間はない。全速力で幻造るの元へ辿り着くと、そこには般若のようにイラついた表情でこちらを見ている幻造がいた。


「ど、どうするつもりなのじゃ」


 かろうじて一言言えた幻造だったが、守に全力で抵抗され、ナナコにも拘束されている為、身動き一つ取る事が出来ない。


 そんな幻造の姿を見て、瑠璃は確信を得た様子で答えを返す。


「私はみんなが戦っていた間もずっと考えていたの。なぜ、おじい様の中のまぁくんが突然表に出る事が出来たのか。最初は全然わからなかったけど、答えは単純だったのよね。私がナナコさんと未羽ちゃんにお願いした事と同じ。みんながおじい様に放った守と私の力は、おじい様じゃなく守に伝わっていたのよね」


 瑠璃が今の姿に戻るのに二人の中にある守と瑠璃の力をもらった。それによって瑠璃は力を取り戻し、元の姿に戻れたのだ。それは瑠璃だけじゃなく、守にも当てはまる。だから今度は瑠璃にやった時と同じ事を守にもするのだ。


 後ろから抱き着いているナナコに対し、瑠璃は前から抱き着く。


「お願い、まぁくん。戻ってきて。愛してる」


「守。私も愛してる。お願いだから戻ってきて」


「「やめろおおおおおおおおおおお!!」」


 皮肉にも拒絶の声を同時に発した二人だったが、瓦礫の中から出て来た遥も、未羽の全力で放った『極紅拳』の影響で動く事が出来ない。


 それを確認した二人は、残っている自分の力の全てを幻造の中の守に注ぐのだった。


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