第十三話 一か八か

 未羽が敗れ、ナナコもまた戦線離脱してしまった。残るは瑠璃のみ。危機的状況だが、瑠璃は冷静に状況を見る。


 幸いにも瑠璃は遠距離からの攻撃が主だったので、幻造からの攻撃を受ける事はほとんどなく、ダメージはゼロだ。それに対し、幻造は表面上は元に戻ったように見えるが、瑠璃からすれば既に内面はガタガタだ。きっかけさえあれば守は戻ってこれる。それを恐れたからこそ、遥が予定より早めにこちらに合流をしたのだと推測している。


 だからなのか、遥の力が予想上に失われていた。それは勝負を急いたからなのか、未羽が強かったからなのか、恐らく両方だろう。


(まだ付け入る隙はある。ただ問題があるとするなら……)


 自分自身が思っている以上に子供の時の精神に引っ張られている事だ。無理矢理大人に戻る形を取った為か、感情が高ぶると、子供のように感情の上下が激しくなってしまう。


「あら、お嬢様? まだやる気ですか? この状況でも戦おうとする気概、私はその成長を嬉しく思います」


 いつも優しく見守っていてくれた遥。今もまたいつもの笑顔でこちらを見つめてくれている。


 だが、今の瑠璃にはその笑顔の裏にある欲望が見えて来た。


「はは、流石お嬢様です。もう通じませんか。もうこんな茶番を演じる事も出来ないのですね」


 その瞬間に笑顔が無くなり、能面のような表情になる。


「その表情が本来のあなたなのね」


 警戒したまま話を進める。少しでも情報を得たいからだ。


「どちらも私なのですよ。遥という存在は、お嬢様の為にあり、幻造の為でもある。ようは清華家の為に存在してるのです。今でもお嬢様を愛しております」


 無表情のまま淡々と話を進めるが、そこからにじみ出てくる心の声は嘘ではない事を教えてくれる。


「それならば、私のまぁくんを返しなさい! 私が大切なのでしょう?」


 意味がない事だとは思っているが、言わずにはいられなかった。


「お返ししたいのはやまやまなのですが、残念ながらお返しする事は出来ません。この肉体は必要なものなのです」


「私にだって必要よ! 返して、私にまぁくんを返して!!」


「あの理知的なお嬢様が駄々を捏ねるなんて……。はぁなんと美しい。やはり守に任せて正解でした」


「どういう事よ!」


 感情に任せて瑠璃は声を高らかにあげる。だが、遥はあくまで冷静に話を続ける。


「お嬢様もご存じかと思いますが、守にお嬢様を守るように言ったのは私です。ショッピングモールでの出来事は殆ど記憶にないかと思いますが、あの時にお願いしたのですよ」


「それがどうしたっていうの?」


「わかりませんか? あの時から計画は始まっていたのですよ。最初から守はスペアにする可能性はありましたが、まさかスペアがここまでやってくれるとは思っていませんでした」


 遥は自分の言葉に酔っていた。あと少しで計画も大詰めだからだ。ここまで未羽を倒し、ナナコを排除した。残っているのは瑠璃だけだ。瑠璃自体は脅威である事は間違いないが、二人でかかれば問題ないと遥は判断していた。


「ここまで長かったです。この身体が不老不死になればいつまでも私は武を極める事が出来ます」


「遥さん、まさか遥さんが不老不死になりたいのはただ自分が戦いからなのですか!?」


 あまりにもバカげた理由に驚く瑠璃。その態度に遥は不機嫌さを隠さずに返事を返した。


「何を言ってるのですか!? 我が十文字家の武を私の代で極限にする事が可能になるのですよ? なぜ清華家の一員であるお嬢様にそれが理解出来ないのです?」


「わかる訳ないじゃないですか。そんな狂人の考えなんて……ね!」


 突如瑠璃が『朱羽』を遥と幻造に向かって放った。


「何をしているのです? 私達にこんなもの」


 いとも簡単に『朱羽』をはじき返す遥。だが、これも予定通りだ。


 準備は整った。瑠璃はここから一か八か、行動にうつすのだった。


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