第七話 未羽は笑う

「何を言ってるんだ? お前らの周囲には蘇った人間がたくさんいるじゃないか」


 周囲というのはゾンビの事を指しているのだろう。だが、ゾンビに自我はない。


 だが……。


 ――――!? 未羽は気付いてしまった。その可能性に。


「気付いたようだな。そうだ、今ここにいる全員が特別な存在だ。特にナナコと言ったか、そいつは?」


 返事すら出来ない未羽。そうだったのだ。


 ナナコは一度死んでいる。


 ただ、未羽はナナコが自我を持って生き残れたのは守と瑠璃の力であり、偶然が重なっただけだと思っていた。だが、それが特別じゃないとしたら?


「考えている通りだ。今はまだ一部の人間しか超えられる事は出来ないだろう。だが! だがな、将来今の研究が進めば可能になると言ったらどうする?」


「そ、そんな事出来る訳ない!」


「普通であればその通りだろう。だが、あの二人の力があれば可能だ。むしろ何で今まで気付かなかったのだ? 私達の目的はけんじぃから聞いたのであろう? 不老不死だと。そのような力を求め、これだけのゾンビを生み出したのだ。この程度出来なくてどうする?」


 ここにきて遥の言葉に未羽の心は大きく揺れていた。これがただ不老不死だの、死人を蘇らせるだの言ってるだけであれば、ほら吹きと一笑していたであろう。だが、実際にナナコのように自我を持って蘇っている人間がいるのだ。


 未羽はまだ中学生で、母親を失ってそれ程月日が経っていない。甘える事を自分自身の状況と、環境が許さなかったが、まだまだ親に甘えたい年頃だ。


「勿論、お前の母親はこちらで預かっている。適切な処置をし、冷凍保存しているので安心したまえ」


 外堀を埋められていく感覚にどうしていいのかわからなくなっていた未羽。未羽は強い。それと同時に子供でもあるのだ。


「私達に着いてきたまえ。そうすれば望みを叶えてやろう」


 無造作に手を伸ばされ、反射的に未羽は手を取りそうになった。


 だが直感がそれを拒否する。何かがおかしい……。そう未羽の直感が訴えて来たのだ。


「どうしたんだい?」


 相変わらず凛とした表情で手を刺し伸ばす遥。


 この手を掴めば母親が……。


 悩む未羽。未羽の目に映っているのはナナコと瑠璃が幻造と戦っている姿だ。


 そして目を一度閉じ、数秒間だけ頭の中を整理する。そして再び目を開けた時、未羽の目には確固たる決意が宿っていた。


(お母さん……。ボク、ごめんなさい)


 伸ばしかけていた手を下ろし、戦闘の構えを取る。


「あなたの言ってる通りにすればひょっとすると望みは本当に叶うのかもしれない。だけど、ボクは戦う。……ボクだけが諦めるなんて嫌だから!」


 理由はこれだけではない。このタイミングでこの誘いはどう考えても罠だ。しかも実際に出来てしまう可能性が高いという甘い蜜がたっぷり塗られた罠である。


 飛びつきたい。感情が暴れ出しているがそれを己の理性で抑えている。ここで感情に任せて飛びつけば、残りの仲間、いや新しい家族達を再び失う事になってしまいかねない。


 どちらも選べない程に大切なのだ。


 だからこそ、未羽は今を選んだ。今未羽が出来る事はみんなを裏切る事ではない。守を元に戻し、この戦いに終止符を打つ事こそ今の自分達にとって一番大事な事なのだ。


「それでいいのだな。お前の母親にもう会える事はないのだぞ?」


 最終通告をするように鋭いまなざしで未羽を睨む。未羽はそれに怯む事なく見つめ返し、笑ってみせた。


「勿論っ! ボクの決意を甘く見ないでもらいたいな」


 未羽はそれと同時に遥の懐に一気に潜り込んだ。そしてそのまま拳を打ち付けた。


「この程度っ!」


 身体能力を極限まで上げている未羽の攻撃を咄嗟に避けきるのは遥でも難しい。結果として、この不意打ちは遥の脇腹を掠る程度だが、確かに当てる事が出来たのだ。


 すると、遥は突如、苦悶の表情に変わり、膝をついてしまう。


「こ、これはどういう事だ……?」


 自身の変化に初めて素で戸惑っている様子を見せる遥。それを見下ろすように未羽が見ている。


「ボクの中にはまもにぃと瑠璃ちゃんの力が混じってるって知ってるよね? その力を極限までこの拳に込めてみたんだ。うーんと、名前を付けるなら『極紅拳きょっこうけん』かな」


 既に手に宿っていた赤い光は消えている。消耗の激しいこの技は何度も打てる程余裕はない。だが、今までと違い、遥へ対抗出来る戦力である事は間違いなかった。


ここから未羽の反撃が始まるのだ。


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