第八話 幻造の変化
「遥をあんな小娘一人に任せても良いのか?」
『双骨』を手元でくるくるとまるで遊んでいるかのように回転させながらナナコに訊ねてくる幻造。守の姿で絶対に守なら見せないであろうその表情に今すぐ飛び出したくなるナナコ。だが、幻造の強さは本物だ。何も考えずに突っ込めば手痛い仕返しをくらうだけになってしまうのは予想出来た。
「大丈夫に決まってるじゃない。あんな女如きにうちの未羽ちゃんが負ける訳ないでしょ?」
その代わりに皮肉たっぷりといった様子で言葉を返す。
一瞬眉をピクっとさせていたが、すぐに元の表情に戻った。だが、幻造はまだ余裕といった表情を見せ、むしろナナコの心を見透かすように鼻で笑っていた。
「戯言を。あれは我が清華家の守護神ぞ。瑠璃ならば嫌という程わかっているであろう?」
その言葉と同時に『双骨』を片割れを頭上に投げた。真っすぐ上がった『双骨』は、そのまま上空で幻造を警戒していた瑠璃の翼に直撃する。
「くっ!」
体勢が崩れたが、何とか墜落する事なく立て直す事には成功する。だが――――。
「瑠璃ちゃん!」
翼を生やした幻造は追撃するべく瑠璃へと迫る。体勢を立て直した直後に出来た隙を幻造が見逃す筈がなかった。
それを少しでも邪魔する為に追いかけるように幻造に無数の『紅鉈』を飛ばしていく。だが、その『紅鉈』も守の持っている残りの『双骨』によって叩き落されてしまった。
「ちっ!」
再び前を向いたその時、幻造が慌てて横に逸れると幻造がいた場所にカマイタチが過ぎ去っていった。
「惜しかった」
悔しそうな表情で幻造を見る瑠璃。ナナコが作ってくれた隙を生かしたかったが流石にそこまで都合よくはいかなかったようだ。
「ちょこざいな」
怒りを露わにした幻造の表情は今までにない程に歪んでいた。ここで瑠璃は違和感を感じていた。瑠璃の知っている幻造はこんなにすぐに感情が表に出る人間ではなかったからだ。
先程の表情が一瞬変わった事もそうだ。清華家を支えてきた幻造の胆力は並大抵のことで揺らぐ事はない。それが一瞬とはいえ、容易く表に出る程に変わったのだ。本来ではありえない事だった。
何か原因があるのだろうか……。戦況は決して良くなった訳ではない。戦況を変えたかった瑠璃は、ここで揺さぶりをかけてみる。
「あれあれ? おじい様、そんなにイライラしちゃって珍しいですね?」
表情を変え、嘲るように幻造を煽りだす瑠璃。昔の幻造であればこの程度の駆け引きではびくともしないが、今の幻造はなぜかこの程度の事で感情に揺らぎが生じている。
そしてこの行動はやはり正解だった。
「我が孫娘といえど、その言葉は聞き逃す事は出来ん。塵となれ!!」
大振りになった『双骨』を難なく避け、逆に後ろを取っていたナナコの『紅鉈』が幻造の翼に突き刺さる。この程度では瞬時に回復してしまうだろうが、攻撃が当たったという事実に瑠璃はニヤリと笑みを浮かべる。
そんな表情もどうやらお気に召さないらしい幻造の攻撃は更に単調になっていく。
(これはまぁくんの身体に引っ張られてるかな? それとも自分の力に酔ってしまあっている? まぁどちらにせよ――――)
「チャンスです!!」
これまでで一番大きく翼を広げると、瑠璃の翼からはいくつもの羽が散らばる。その一つ一つがゆらりゆらりと落ちていったが、急にピタッと止まり、幻造に向かって飛び出した。
そしてその羽は鋭く、幻造の身体を切り裂いていく。まだ守の身体になれていないせいなのか、守じゃないと出来ないのか『全身硬化』が出来ないようだった。
「これじゃ劣化まぁくんね!」
瑠璃の言葉一つ一つが幻造を翻弄していく。そして翻弄されていく度に幻造は崩れていった。
だが、身体の再生能力は健在で普通の攻撃ではすぐに元に戻ってしまう。どこかで賭けに出る必要があった。
タイミングを計っていたその時、転機が訪れる。少し離れて戦っていた未羽からただならぬオーラが滲み出てきたからだ。
「あれは、私とまぁくんの力……?」
未羽の身体のある二人の力をどうやら拳に全て集めたようだ。あれなら確かにこの二人にダメージを与える事が出来るかもしれない。
そしてその答えに目の前にいる幻造も思い至ったようだ。
「なんじゃあれは……!」
ここに二人いる事も忘れる程に未羽に注意が向いてしまった幻造。
この瞬間を逃してはいけない。
そう判断した瑠璃は、未羽と同じように自分の羽に守と自分の力を極限まで込める。赤く輝く羽は瑠璃の風の力によって自在に動き出す。
(これはきつい……!!)
前を見るとナナコもこの瞬間の為に溜めていた力を『紅鉈』に込め、『紅鉈』を更に変化させていた。
その姿はもはや鉈にあらず。見た目でいけばトラバサミか。自在に動き回るその姿はまるで生きているようだ。両顎にはのこぎりのように鋭い刃がギザギザになって並んでいる。トラバサミの根本には鎖が繋がり、ナナコを囲むように守っていた。
「『
「『
そして二人は同時に幻造に攻撃を放つ。反応が遅れてしまった幻造に防ぐ手段はなく、二人の攻撃が直撃するのだった。
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