第六話 一進一退
誰もがひれ伏したくなるようなオーラを発している守。いや、今は幻造と呼ぶべきか? 『双骨』を持ったまま三人を見据えている。
そのたたずまいには王者としての余裕があり、明らかに三人を見下していた。幻造の中ではこの三人がもはや敵ではないと判断している証である。
だが、それに納得するような三人ではない。真っ先に飛び出したのは未羽だった。
「まもにぃを返せ!!」
『紅夜叉』を幻造の頭上に振り下ろす。その一撃は見事に直撃し、頭蓋の砕ける感触が未羽の右手に伝わってきた。
「えっ?」
てっきり避けられると予想していた未羽は、思わず間合いを開けてしまう。すると既に回復している幻造が目の前に迫っていた。
「ばかめ」
隙とは呼べないような隙であったが、それを見逃す程甘い相手ではない。今度は幻造の『双骨』が未羽の頭上めがけて振り下ろされようとしていた。
「ばかはあなたよ」
その言葉と同時に飛び退く幻造。だが判断が少し遅かった。ナナコが作り出した無数の『紅鉈』は、幻造のすぐそこに迫っていた。そしてそのまま首を落とそうと薙ぎ払われた。
「これもダメなのね」
首が切断されたと思った瞬間には首が繋がり、そのままナナコへと方向転換して迫っていく。その速度はとてもナナコじゃ逃れる事は出来ない。たまらずナナコが『血界』を自分の周囲に作り出した。
「こんな紙切れ程度で防げると思ったか」
『血界』を言葉通り紙切れの如く打ち砕いた幻造は、そのままナナコへと迫っていく。
「おじい様、いえ、幻造! その身体はまぁくんの物だよ! まぁくんから離れろ!!」
だが、それを瑠璃が阻む。
『双骨』を握る両腕目掛け、カマイタチを巻き起こす。そしてそれと同時にナナコが被弾覚悟で正面から『紅鉈』を。背後からは未羽が『紅夜叉』を振り下ろした。
「中々の連携であるな。だが、わし一人に囚われいてもよいのか?」
瑠璃に当たっていた日光が不意に陰った。瑠璃が頭上を見上げるとそこにはこちらに迫っている遥の姿があった。
既に放たれたカマイタチは瑠璃が移動しても軌道が変わる事はない。瑠璃は幻造から目を離す事を避けたかったが、このまま攻撃を受ける訳にはいかなかった。
遥の攻撃は今の瑠璃であっても致命傷になる可能性が高い。そう判断し、急旋回して迫ってくる遥から離れた。
すると遥は瑠璃の事を一瞥する事なく、そのまま落ちていった。
「しまった!」
気付いた時には遅かった。遥は幻造の後ろから攻撃を仕掛けている未羽に向け、そのまま拳を振り抜いた。
「この程度!! ――――!?」
拳とぶつかり合った『紅夜叉』が折れた。『身体強化』によって強化されていた『紅夜叉』があっさりと折れた事に未羽はショックを受けるが、そのままでいる訳にはいかない。
「脆いね、脆いよ。『
煽るように嗤いかけてくる遥。折れた『紅夜叉』を見て一歩踏み出せない未羽。その間に頭上にあったカマイタチを『双骨』で弾いた幻造がナナコに迫っていった。
「ナナネェ!」
咄嗟に声が出てしまった未羽だったが、ナナコの力強い目を見て気持ちを切り替える。
未羽自身も自分より強い相手と戦わなくてはならないのだ。余裕がある訳ではない。
「助けに行かなくていいのか? ナナネェとやらが死んでしまうぞ?」
遥の煽りなんて気にする事なく、遥だけに集中していく。
深く、潜り込むように。遥の一挙一動を瞬きする事なく見つめた。
空気が変わった事を瞬時に察した遥も真剣な表情になった。
最初に動き出したのは遥だ。姿勢を低くしたまま未羽の懐に一気に飛び込む。それを予想していた未羽は顔面目掛け、蹴りを繰り出す。
それを片手でいなした遥は、空いている手で腹部目掛け、お返しといわんばかりの正拳突きを繰り出した。
その正拳突きに向かって持っていた折れた片割れの『紅夜叉』を投げて牽制、一瞬怯んだ隙に距離を取った。
そして一息つくことなく、今度は未羽が一気に距離を詰める。詰めながらも落ちていた残りの『紅夜叉』を拾い、頭上から振り下ろす。
「折られたのに懲りないのか!」
再び『紅夜叉』を折ろうと拳を振るう。このままであれば先程と同じ結果になっていただろう。だが未羽は、それを受け流すように拳を避け、遥の頭に当てる。
金属同士がぶつかり合ったかのような音が鳴り響く。
(重い……!!)
頭から血を流した遥だったが、すぐに傷口は塞がり、元の無傷の状態になってしまった。だが、未羽はそれでも諦めない。
今回は攻撃が当たったのだ。それに今の身体に慣れて来た。
(――――まだまだ速くなる!)
そこからは一進一退の攻防が続く。お互い致命傷になるような攻撃は避け、決め手がないまま膠着状態になってしまった。
それは幻造とナナコ、瑠璃の方も同じだった。上がった能力に身体が徐々に慣れて来たナナコと瑠璃は相手が幻造であっても互角に戦う事が出来ていた。
すると、この状況に焦れて来た遥が戦闘体勢を解除し、未羽に話しかけてくる。
「なぁ、死んだ人間が蘇るって言ったらどうする?」
不意に聞かれた未羽は動き出せなかった。頭の中に思い浮かんだのは自分の母親の姿だ。
大好きだった母親。最期まで自分を守ろうとしてくれた……。
「そ、そんな事出来る筈ないよ」
自分でも驚く程に小さくなってしまった未羽の声に遥は三日月のように口角を上げて嗤うのだった。
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