第五話 瑠璃ちゃん涙ほろり

 そこからはノンストップで瑠璃は飛び続けた。大きく拡げ翼は風を集め、羽ばたく度に加速させていく。勿論、ナナコと未羽はぶら下がったままで。


 右手に未羽、左手にナナコが瑠璃の手に掴まった状態になっていた。


 その姿はまるでプテラノドンに捕まった獲物だった。だが、この二人はただの獲物ではない。時間がもったいないからと、片腕を上げて筋トレしている方が未羽で、空中で己の血を『血操』でバラまいてその度に力を回収しているのがナナコだ。


 最初は時間を無駄にしないその姿勢に口に出さないまでも好意的に見ていた瑠璃だったが、段々とその内容が過激化してきたところで二人を見る目が変わってくる。


 まずは未羽だ。すぐに腕から離れ、瑠璃の翼に飛び移る。そしてそのまま翼の動きを阻害するように力を込めはじめた。


 すると、どうなるか?


 当然ながら安定した動きからほど遠くなったその飛行は、先程までの安全さとはかけ離れた状態になってしまう。だが、その程度で気にする程やわな女ではない。


 そのまま両方の翼を掴み、自分の力で翼を羽ばたかせ始めたのだ。それも高速で……。


 これには瑠璃も驚き、何度も目で忠告したが、そんな事程度で動じる未羽ではない。見て見ぬふりどころかサムズアップをかまし、涼しい顔で再開しているその姿に何度かその場に捨てようと瑠璃は迷った程だ。


(私は筋トレマシーンでもないんだけど!?)


 今もなお続くその光景に、瑠璃は一秒でも早く到着出来るように最速で飛び続ける事を決意した。


 結局はそうしても未羽が喜ぶだけだったが……。


 そして次はナナコだ。


 地面に向かって無差別に『血操』をバラまくナナコのその姿はさながら山火事を消す消防のヘリ。だが中身は水なんて可愛いモノじゃない。もはや自重という文字を捨てたナナコは手当たり次第、生命力を吸収していった。


 瑠璃が飛び去ったのちに残るのは砂漠のような砂地。それも出来る限りの広範囲の生きる者、死んでいる者、全ての力を吸い切った為、それはもう無残な姿だった。


 流石の瑠璃もここまでは予想出来ておらず、すぐに止めに入るが、未羽以上にいう事を聞く筈などなく、何とか被害を減らす為に生き物の少ない場所を飛行せざるを得なくなってしまった。


 そんな瑠璃の姿に舌打ちをナチュラルにかますナナコにどうやってナナコを落とすか真剣に考えてしまった瑠璃だった。


 どうせ落としてもどうにかして戻ってしまうので結局無駄な事だが……。







「やっと辿り着いたわ」


 飛行以外で疲れてしまった瑠璃は目的地が見えたところで涙をほろり。この二人の手綱を握っていた守の凄さを改めて瑠璃は認識させられた場面となった。


 そして目的地、それは清華家の自宅だった。


 久方ぶりに見た清華家だが、上から見えるその景色は当時の威厳ある姿ではなく、家屋の大半は崩壊しており、風情溢れる庭は戦闘によってめちゃくちゃになっていた。ところどころにクレーターも出来ていて、その戦闘の激しさを物語っていた。だが、既に周辺は物静かになっていて、守と遥、幻造の戦闘は終わっているようだった。


 そして中央の一番荒れている場所に一人の男が立っていた。


「守!!」


「まぁくん!!」


「まもにぃ!!」


 すぐに誰かわかった三人は慌てて守のところに降り立った。それを無言で見上げている守。


 地面へと降りたところで三人は嫌な予感がし、とっさに距離を取った。


 そして降り立っていた場所に『双骨』が通り過ぎた。


「ふっ、勘のいい奴らだ」


 明らかにこちらを下に見ている守の姿に三人は戸惑いを見せる。今までそんな風に見られた事がなかったからだ。


「あなた……誰?」


 やっとの思いで口に出せたのは未羽。瑠璃とナナコも予想がついていたのだが、口に出すのが怖かった。


「わしか、わしは幻造だ。お前達の求める男はもうこの世に存在しないぞ」


 三人によく見えるように大きく手を拡げ、ご満悦といった様子の幻造。どうやら最悪の状況になっているようだった。


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