第四話 復活
「守の血……?」
無意識の内に自分の胸元に手を当ててしまうナナコ。守の血はみんなとの繋がりだ。ナナコにとっても、未羽にとっても今では無くてはならない存在になっている。
ナナコが困惑している状況を見ても気にせず話を続けようとする瑠璃。それ程に時間がないらしい。
「ただ力を戻すだけならナナコさんが『血操』で強化していけばいいわ。未羽ちゃんも時間を掛ければ元に戻るでしょう。だけど今の状況じゃそれだと間に合わない。だから強硬手段を取るわ」
確かに時間は無いだろう。なんたって今も守は目的地に向け、飛び続けているのだから。
一方、三人は追いかけるどころか一歩も動けずにいるのだ。流石に焦らずにはいられなかった。
「ちなみにボク達の中のまもにぃの血が無くなるとどうなっちゃうの……?」
いつもは明るい未羽が怯えた様子を見せている。それ程までに守の血は大事なのだ。
「ただのゾンビと同じになるわ。だけど、私に任せてくれたら元に戻す。約束するわ」
その言葉に戸惑いながらも頷く二人。信じてはいるが、守の血が無くなるのはそれと別に単純に怖いのだ。
「時間がないから今すぐやりたいけどよろしいかしら?」
じっくりと考える時間も惜しいと考えている瑠璃に二人は黙って頷くしかなかった。
瑠璃の前に背を向けて座る二人。お互いに手を握って待っていると、瑠璃がゆっくりと二人の肩に触れ、まずはナナコの首筋に噛みついた。
流れ出してくるナナコの血をゆっくりと一滴も零さずに飲み込んでいく。それを見ないように目を瞑る二人。不思議と痛みはない。だが、その喪失感が辛かった。
確かにあった筈の繋がり、それが薄れていくのがわかるとそれを本能が抗おうとする。それを必死になって抑え、涙を堪えながら拳に力を入れ、耐え抜く。
そして瑠璃は力を行使していく。
『回顧』
元はただゾンビから人に戻すだけの力だった。だが、今の瑠璃は守の中で育った宝玉の力を瑠璃の元に戻した事で力が進化している。ナナコの『血操』のようにただ奪うのではなく、吸収し、自分の力とする事が出来るようになったのだ。
一気にナナコの中にある守の血(力)を吸い上げていく。すると、ナナコの意識は徐々に薄れていく。パチっとしていた目は虚ろになり、口からは涎が垂れ、力の篭った拳の力は抜けていく。そして瑠璃が離れると、ナナコが糸が切れた人形のようにグニャンとその場に倒れてしまった。
そしてそのまま間髪入れずに未羽の首筋にも同様に噛みついた。そして先程より早く未羽の中の守の血を吸いだすと、ナナコと同様に倒れこんでしまった。
そして訪れる瑠璃の変化。子供用の服がミチミチと悲鳴を上げ、瑠璃が力を入れると凄い音と共にはじけ飛んだ。わかってやった事とはいえ、これには流石の瑠璃も恥ずかしかった。思ったよりも簡単に服がはじけてしまったのだ。
目にも見えない速さで飛び立ち、服屋へ直行する。
服屋の中に入ると適当な下着と、簡単に背中が開いている白いワンピースを着た。そして何事も無かったかのように元の場所に戻ると破れた服をどこかに投げ捨て、改めて二人の様子を見た。
(完全に普通のゾンビだね。これなら……)
一瞬、このまま人間に戻してしまった方が幸せになれるんじゃないか? そう頭によぎったが、すぐにそんな考えは捨てる。
(二人とも真剣にまぁくんの事を考えてくれてたもんね)
共鳴には勿論、瑠璃も含まれている為、ナナコの気持ちも未羽の気持ちも守と同等程度にはよくわかっている。特にナナコの想いは思い出すだけでこちらまで恥ずかしくなってしまう位、情熱的だった。
(まぁくんは幸せ者だね。なのに一人で行くなんて……!)
大人に戻った事で冷静になったとはいえ、怒りが収まった訳ではない。置いて行かれたのだ。しかも一緒に頑張ろうって言ったのに……。
(一発殴ってやらなきゃ気が済まないよ! 勿論、未羽ちゃんとナナコさんからも)
大人になった事で身体が活性化していく。そして瑠璃は二人を除く、周囲のゾンビ達の力を無差別で吸い取っていく。すると、近くにいる者から順々に傷を修復しながら人間に戻していく。
ちなみに守にこの方法を取る事は出来ない。守にも吸い取る力はあるが、戻す力はそれほど強くない。あくまで『回顧』は瑠璃の力であり、守がやってもただゾンビを人に戻すだけで、致命傷を負ってしまっていた場合、そのまま即死してしまう。それにも関わらず、守は力を回収できる訳ではないので逆に力を消耗してしまうのだ。
そんな運が重なったのもあり、瑠璃はどんどんと力を付けていく。既に当時の自分の力を越える位には。だが――――。
(これじゃあ足りない。ナナコさんと未羽ちゃんにはもっと強くなってもらう必要はあるし、私自身もこのままじゃ足りない)
力が強まるにつれ、吸収していく範囲がどんどん拡がっていく。零れ落ちそうになっていく力を無理矢理抑え、それすら無理だと判断したその時、自分の両方の手首に傷をつけ、二人へ守の血を混ぜた己の血を頭から浴びせていく。
スポンジが水を吸うように一滴も床に零れる事なく、二人の中へ納まっていく。そして虚ろだった目には力が宿り、二人はすっと起き上がった。そして垂れてくる瑠璃の血を飲み込んでいく。
それはまるで儀式のようだ。
やがて、瑠璃の血が止まり、二人は立ち上がった。
「「ありがとう」」
「どういたしまして」
かつてない程に力が溢れる二人の前に瑠璃が手を出した。ナナコと未羽は迷わずに手を取った。
すると瑠璃の背中から守と同様、漆黒の翼が生え、飛び立つのだった。
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