最終章 最後の戦い

第一話 未練と覚悟

「…………」


 空を飛んでいる守は当然ながら一言も話さない。あれだけ賑やかだったのに今は一人だ。だが、守はそんな感傷に浸っている余裕はなかった。


(これで最後にするんだ)


 この先に待つのは遥と瑠璃の祖父である幻造の二人だ。居場所も既に把握している。あとは現地に向かうだけだった。


 そして思い返すのは三人の姿。本当はあんな形でサヨナラをしたくはなかった。だが、守は一人で戦う事を選んだ。


 守はこの戦いで死ぬ気だ。全てを知ってしまった今、自分の存在はこの世界でいない方がいい。そう守は思っている。だからこそ、最期に三人の為にもあの二人を倒さなければいけなかった。


 知らないうちに拳に力が入り過ぎていたせいか拳から血が滴り落ちてしまった。それに気づいた守は慌てて手を開く。すると、瞬時に傷口は修復し、何事もなかったかのような状態になる。今まではそれが頼もしかった筈なのに、今の守にはそれが無性に虚しく感じてしまう。


 守はふと、滴り落ちた血の先を眺める。そこには廃墟と化した街並みが拡がっていた。そこら中に死の匂いが立ち上り、生を奪っていく。まさに終末世界だった。


 それを見ても守は感情が揺らがない。それが当然となって久しい。実際のところ、今の守なら全てのゾンビを元に戻す事は物理的に可能だった。だが守はまだそれをしない。


 守がゾンビ側になったからではない。それも一部否定出来ない部分はあるが、力を温存し、この後の戦いに備える為だ。


(どこまでが計算通りだったんだろうな?)


 目に浮かぶのは遥が爆発した瞬間だ。どこまで計算して今の状況に持ってきたのか、守にもわからなかった。記憶から読み取ったところから考えると、今の守の姿になるのはの予定だった。そして改めて瑠璃を研究し、完全なる不老不死を実現するつもりだったのだ。それを捻じ曲げたのが瑠璃であり、守だった。


 プレゼントにもらった宝玉。あれは瑠璃の力の根源の一部だ。あれを体内に取り込む事で守と瑠璃は繋がり、守の血が混ざっていたナナコ、未羽の感情までもが共鳴する結果になってしまった。


 そしてここで予期せぬ事があった。眼鏡男とけんじぃの記憶も共有出来てしまった事だ。原因は実験過程で守の血を二人も少量ながらも取り込んでいたからだ。


 まさかあの二人もこのような事態になる事を想定していなかった。そもそもがあの戦いで守は死んでもらう予定だったのだ。


 今の守の肉体になる前の状態の守を殺し、そして守が死んだあとにその肉体を幻造が使うつもりだったのだ。既に老齢となっている幻造にとって新しい肉体を確保するのは急務だ。けんじぃのような出来損ないではなく、本当の意味で使える肉体を欲した結果、守の肉体を確保する事にしたのだ。当時の肉体であっても瑠璃の血を奇跡的に取り込む事に成功したこの肉体は、幻造が望んだ不老不死に一番近い肉体だった。


 そしてあの時、守に問いかけてきた存在。それが幻造だ。あの時、瑠璃と守が繋がっていなかったら幻造に身体を乗っ取られていただろう。


 だが、瑠璃が守と繋がった事でそれを防ぎ、救い出してくれたのだ。ちなみに眼鏡男が何も知らなかったのは単純に知らされていなかっただけである。幻造にとって大事なのは自分だけであり、それ以外はどちらでもいいのだ。それがたとえ腹心だったとしても……。


「るぅ、ナナコさん、未羽」


 胸糞悪い事を思い出してもいい事はないと、首を振って他の事を考える。


 だが、次に思い浮かんだのは再び三人の事だ。先程から振り払ってもすぐに頭の中に入り込んできてしまうのだ。三人の気持ちをこれでもかと共有してしまった守の心は未練と覚悟がごちゃごちゃになっている。ナナコと瑠璃の熱い想い。未羽の家族愛。どれもが嘘偽りなく、真っすぐに守を見てくれていた。


(真っすぐ見れてないのは俺だけってか……)


 顔色一つ変えていないふりをしているが、心の中では自ら自虐してしまう程度に心に迷いがまだあった。


 再び首を振って未練を断ち切ろうとする。だが、何度振り払っても思い出すのは三人の顔だ。


 全てを振り切る為に速度を上げる。だが、守の中から最後まで三人の姿が消える事はなかった。


――――――――――――――――――――――――――――


 ついに最終章、開幕しました! やっとここまできたか……! と作者自身思っています。嬉しいような寂しいような、そんな気持ちではありますが、最後までみなさまに楽しんでいただけるよう、頑張っていきますので、応援よろしくお願いします。


 そしてここからはいつものお願いです。

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