第十七話 守の出した答え

 守は瞳を閉じている。その姿を瑠璃とナナコは真剣な表情で見つめている。そしてゆっくりと瞳を開けると、ナナコと瑠璃の前へと進んでいく。


 丁度二人の間に立つと、守は二人を一瞥し、天を見上げた。再び前を向いた守の表情は寂しいとも悲しいとも何ともいえない、そんな表情だった。


 そんな守を見守り続ける二人の周囲はピンと張り詰めた空気になっている。


 最後に一呼吸をおくと、守は一歩前に出た。守はここで覚悟を決めていた。


「ナナコさん」


 守は意を決してまずナナコに話しかける。


「はい」


 短い言葉の中でもナナコの声が震えているのが守にはわかった。だが、守は止まれない。


「ナナコさんとの出会いは今にして思えばとても不思議だった。だってそうだろ? 俺はナナコさんを殺すつもりであったし、ナナコさんもそれを望んでいた。それが気が付いたらこんな状況なんてね」


 守は当時の事を昔の事のように思い出していた。まだしっかり話す事すら出来なかった守。他の人間が死んでいた中、あの屋敷で一人だけ生きていたナナコ。守にとって初めて殺した人間。ナナコのおかげで守は様々な経験を得る事が出来た。


 そしていつの間にか当たり前のように隣にいて、楽しく話をして、一度離れてもそれでも自分についてきてくれて……。


 ちょっと怖いところはあったかもしれない。けど、それは守を想っての事だった。それは共鳴した際に流れ込んできた感情で全て伝わった、いや伝わってしまった。ナナコとしては嬉し恥ずかしだが、今では伝わって良かったと思っている。


「ありがとう。ナナコさんの気持ちは率直に嬉しいよ」


 ナナコにお礼を言って、瑠璃の方を振り向く。瑠璃が背筋をピシっとすると、守が思わず微笑ましい表情になる。


「るぅ……。俺とるぅは幼いころからずっと一緒で、たくさん助けてもらった。俺は今でもるぅを守り続けたい、そんな気持ちで溢れてる。それがたとえ、この身体になった時の弊害だとしても。俺はるぅを大事に想ってるよ」


 守と瑠璃はずっと一緒だった。それは友達であって、家族であって……。お互いにそれまで恋愛相手として意識をする事はなかった。それが今回の騒動でお互いがお互いを意識するキッカケとなっていた。


 ナナコの記憶が共有された時には瑠璃は嫉妬で狂いそうになってる自分に驚いていた。いつの間にこんなに守の事が好きになっていたのだろうかと。


 山奥の老人夫婦のところに泊まった時は、守を初めて男の子として見たかもしれない。ナナコとの関係を見ていて、自分でも知らない間に焦りがあったのかもしれない。プレゼントを上げた時なんてらしくない事をした自覚もある。


「るぅ、今の俺がいるのはるぅのおかげだよ。それはずっと変わらない。るぅの気持ちを聞いて、俺嬉しかった。ありがとう」


 そして二人を交互に見る。


「俺、二人からの気持ち、本当に嬉しいんだ。こんな化け物になって、それでも離れないでいてくれる。本当にありがとう」


 守は頭を下げた。二人はそれを見て、最後の言葉を待つ。


 そして――――。


「だけど、俺は二人のどちらとも付き合えない。ごめん」


 その言葉に二人は崩れ落ちる。答えはわかっていた。わかっていたが、守から直接言われ、それに耐える事は出来なかった。


「俺は二人の事を嫌いだとか、恋愛相手として見てないとか、そういうのじゃないんだ。俺、るぅ、ナナコさん、未羽の四人で俺は家族だと思ってる。短い間だったけど、楽しかった。俺はみんなが好きだよ。だけど、いや、だからこそ、俺は応えられない」


「いや、守。絶対にいや……」


 涙を流しながら懇願するように守に手を伸ばすナナコ。守は、ナナコの手を優しく包み込むように両手で握った。それにすがりつくようにくっつくナナコの頭をひと撫でし、手をゆっくり放した。


 次に未羽のところへ向かう。未羽は守に対して恋愛感情はもっていなかった。純粋に兄として、家族として大事に想ってくれていたのだ。それが守には嬉しく、微笑ましく思っていた。


「未羽、何だかこんな状況に巻き込んじゃってごめんな。俺達は未羽のおかげでまとまる事が出来たと思う」


「ううん、そんな事ないよ。ボクはまもにぃやナナねぇの後ろをただ歩いてただけだから」


 未羽は首を横に振って否定するが、未羽の事は誰もが認めていた。この四人のムードメーカーであり、未羽のおかげで立ち止まらずに進む事が出来たのは間違いなかった。


「そんな事はないさ。未羽、ありがとな」


 未羽の頭を撫で、守は瑠璃の目の前までいく。 


 瑠璃はポツンと立っていた。泣くどころか、一言も喋れなかった。


「るぅ、一緒に頑張ろうって言ったよな。その約束守れそうにない」


「パパ、ダメなの。約束破るのメッなの!」


 いつの間にか出ていた涙を守は優しく拭い、頭を撫でる。


「俺はやっとるぅの事を守るって約束を果たせるよ。その守りたい人の中にナナコさん、未羽も増えてるのが我ながらなんとも言い難いところなんだけど」


 ちょっと恥ずかしそうに頬をかくが、すぐに真剣な表情に戻った。


「るぅ、ナナコさん、未羽。ありがとう。三人とも俺は大好きだ。……だけど、ここからは俺に任せてくれ」


 守が一歩後ろに下がる。それを追いかけようと三人は動き出そうとするが、いつの間にか動けなくなっていた。


「サヨナラ」


 守は新たに生えてきた漆黒の翼で飛び上がり、そのまま三人を置いて飛び去って行った。 


――――――――――――――――――――――――――――

 第五章はこれにて閉幕しました。そして次の章が最終章です。


 今回、守が出した答えに納得出来たか出来なかったか、それぞれ思うところはあるかと思います。ただ、守は二人の事を真剣に考え、答えを出しました。


 それにこの答えはまだの状況です。この四人の戦いは続きますし、その後に心境の変化があるかもしれません。引き続き、この四人を見守っていただけたら嬉しく思います。


 そしてここからはいつものお願いです。

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 最終章は三月二十一日の昼から投稿スタートします。是非とも最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。

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