第十一話 未羽と『黒蛟』の攻防の果て
『紅夜叉』が『黒蛟』の身体を砕いていく。砕いた先から再生していくが、徐々にその速度は遅くなっていった。だが、まだ油断は出来ない。当たり所が悪ければ一撃でも致命傷になるし、単純な速さだけなら相手の方がずっと上だからだ。
「うひゃっ! あっぶないあぶない」
今もまた薄皮一枚ギリギリのところで避ける事が出来た。だが、それがいつまでも続くとは限らない。だが、ここで必要以上に距離を取る訳にもいかなかった。ナナコの身体の限界に気付いていたからだ。
先程までと比べ、避ける余裕がなく、動きが鈍くなっていた。幸いにも相手は目の前の敵にしか目がいかないようで、途中から未羽の方にしか攻撃をしてこなかった。
だが、逆に言えば、これまで分散して攻撃を受けていたところが未羽に集中しているという事でもあった。
(さっき残り一割っていってたけど、それまでボクは耐えられるだろうか……)
未羽にも実際のところそんなに余裕はなかった。『紅夜叉』を得て、攻撃力は格段にあがったし、より深く自分自身を染める事で『身体強化』はより高まっている。だが、それでも『黒蛟』の方が強く、速いのだ。
「いやいや、弱気になっちゃダメだ。だけど、いくら行動パターンが読めたってこのままじゃまずいよね」
今もゲームのように一定の行動しかしてこない『黒蛟』の噛みつき突進をするっと避ける未羽。
「けど、前のくそジジイだった時と比べたらまだいいよね。こんなロボットみたいに決まった動作しかしないから今のボクでも避けれるんだし」
こうなってくると、この行動パターンに合わせてどうにか嵌めるしかない。そう未羽は考えていた。
「嵌める、嵌めるっと」
問題はどうやって嵌めるかだ。これが四人揃っていて、万全な体勢であればなんとでもなっていた。だが、現状ではナナコのおかげで弱体化はしていても一人で戦わざるを得ない状況になっている。
ふと守の方を未羽は見てみたが、守は目の前の眼鏡男なんて一切見る事なく、空を見つめ、ぶつぶつと独り言をつぶやいているようだ。戦闘音が激しくなければ強化された聴力で内容がわかるのだが、流石に『黒蛟』の鎖のこすれる音と壁にぶつかる音のせいで何かを喋っているの事はわかっても、内容までは理解出来なかった。
「もう、まもにぃがしっかりしてればああああああああ!!」
むかついた未羽は『紅夜叉』を『黒蛟』に突き刺した。すると、思ったより突き刺さってしまったせいで抜けなくなってしまった。
「うにゃ!? し、しまった。抜けない。うんしょ! ダメだ。全然抜けないよぉ?」
手放してしまうとただの木刀に戻ってしまう為、簡単に手放す事の出来ない状況に未羽は混乱してしまう。すると、プログラムのように未羽を追いかけていた今まで通り、『黒蛟』が自らの肉体ごと、未羽に噛みつこうとした。
「うにゃああああああああ!? ぬ、ぬ、ぬ、ぬけろおおおおおおお!!」
全身の力を両腕にこめ、勢いを付けて一気に引っ張ると軽快な音と共に『紅夜叉』を引き抜く事が出来た。そのまま勢いは衰えることなくゴロゴロゴロゴロと転がり切って壁にぶつかって漸く止まる事が出来た。
「いったああああい! あ、あの蛇は!?」
慌てて『黒蛟』を確認すると、そこには自らの身体に噛みついて身動きが取れなくなった『黒蛟』の姿があった。
「さ、作戦どおり!! うん、これもボクの計算の内だよ! うん、うん!!」
誰かに問いただされたわけでもないが、言い訳をし始める未羽。ちょっと恥ずかしかったらしい。うまく胴体部分に食い込んでしまった『黒蛟』は簡単に解けそうもなかった。
「これで何とかなるかな?」
ナナコの方を振り向くと、そこには満身創痍のナナコが笑みを浮かべていた。
「終わったわ」
ナナコの宣言が済んだ瞬間、突如『黒蛟』が崩れていく。
「さすがに瑠璃ちゃんのようにゾンビじゃなくなるようには出来ないけど、もうあのくそジジイと蛇が動き出す事はないわ」
宣言通り、崩れ去った後には真っ白のよぼよぼになったけんじぃが身動き一つ取れず、ポツンと立っているだけだった。
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