第十話 反撃開始

 全てを飲み込む勢いで『黒蛟』は二人へと大きな口を開けながら襲い掛かる。だが、先程までのような相手の裏を読んだりといった人間らしい動きからゲームのような機械的な動きに変わり、たとえ先程より早くなっていても二人は難なく避ける事が出来た。


「いきなり止まったのが原因かしら?」


「なんかいきなりだったもんっねっ!」


 それでも驚異的な速度で迫ってくる『黒蛟』を何とか避け続ける。周囲の状況なんてお構いなしなせいで部屋の壁の一部が壊れていった。


「……やっぱりね」


「ですよねー」


 壊された壁の向こうには大量のカメラが設置されている。つまりはこの戦闘も誰かに視られているという事だ。


「あのくそジジイが余計な事を言おうとしたからああなった、ってところかしら?」


「わお、おっそろしぃ」


 まるで日常会話をしているように軽い調子で話しているが常に一歩間違えれば身体ごと全て持っていかれる威力を常に放っている蛇の化け物が二人に襲い掛かっている。


「とりあえず私達に出来る事は」


「このくそ蛇をぶっ殺して、あっちの眼鏡くんに事情を全部話させるってことだよねっ」


 回避から反転、行動パターンの読めて来た二人は反撃へと移る。ナナコの周囲からは無数の『紅鉈』が、未羽は黒刀を握り直し、避けて通り過ぎたタイミングで振り下ろした。


 金属同士がぶつかる音が鳴り響き、そのまま過ぎ去っていった『黒蛟』。ダメージはないようだった。


「かったいよぉ、ナナねぇ」


「少しずつ侵蝕させてくから時間稼ぎをお願いね」


「あいあいさー!」


 『紅鉈』を蹴散らしながら二人へと向かってくる『黒蛟』だったが、さすがに無数の『紅鉈』を前に、速度が緩まる。その隙を狙って黒刀を振り下ろすがダメージどころか、黒刀に傷が出来ていた。


「あぁー! せっかくまもにぃがボクの為に用意してくれたやつだったのにぃ!」


「ふふ、まだ甘いのよ。もっと染めなさい」


 ナナコが言うのと同時に『紅鉈』はより深く、より濃く染まっていく。鮮血のように赤かった『紅鉈』、今や黒に近い赤に染まり、ナナコと繋がっている部分も紐のような見た目から鎖に変化している。本人としては悔しいようだが、けんじぃの黒い鎖をそのままイメージとして使ったらうまくいったようだった。


 そんなナナコの姿を見て、未羽も力をより込める。脚から浮かび上がった血管からは熱が上がっているのか、蒸気が出ている。守の『全身硬化』とは反対により筋肉をより柔らかく、しなやかになっていく。


「ボクも負けてられないもんね」


 さらにここから黒刀にも変化が起きた。黒曜石のように漆黒に染まった黒刀の刃紋が赤く輝く。


「ふふん、ボクもみんなみたいにこの子に名前を付けないとねっ。えーっと、んーっと……。『紅夜叉べにやしゃ』! よし、キミはこれから『紅夜叉』だっ!!」


 未羽の意思を汲んでいるかのように輝きが増す『紅夜叉』。そのままの勢いで『黒蛟』に振り下ろすと断ち切るまではいかないが、途中まで刃が入り込むようになった。


「これでもダメかぁ。ナナねぇ、あとどれくらいかかりそう?」


 未羽は一度距離を取って、ナナコの方へ振り向く。ナナコも『黒蛟』の突進をうまく避けつつ、『紅鉈』をぶつけ続けていた。


「上々ね。あと二割ってとこかしら? ただ、その前に――――」


 壁にあるカメラを全て『紅鉈』で破壊する。これでこちらの情報が相手にこれ以上伝わる事はなくなった。


 


 急に苦しそうに暴れ出す『黒蛟』。それに反してナナコの笑みは深まっていく。


「ナナねぇってやっぱこっわ」


「何か言ったかしら?」


 ニッコリと未羽に向かって微笑むナナコ。未羽は慌てて首を横に振り、ナナコから目を背けた。


(危ない、危ない)


 興奮しているせいか元々口が軽い方だったが、つい本音が漏れてしまったのだ。未羽は逃げるように慌てて暴れる『黒蛟』に向かって飛び出した。


「うりゃあああああああああああああああああああああああ!!」


 『紅夜叉』を振り下ろすと、今度は『黒蛟』の胴体をそのまま真っ二つにする事が出来た。順調にナナコが侵蝕出来ているのだろう。


「さっすがナナねぇ♪」


 先程の言葉を放った人間とは思えない手のひらくるっくるプレーにナナコも思わず苦笑いしてしまう。だが、ナナコはそんな調子のいい未羽の事も嫌いではない。


「もう……未羽ちゃんは調子いいんだから」


 苦笑いしつつも穏やかな表情をしているナナコ。だがそれも一瞬で、真剣な表情に戻ったナナコ。侵蝕する事で弱体化している『黒蛟』だが、決して油断していい相手ではない。


「あと一割……」


 身体の限界は既に超えていた。それは未羽も同じである。度重なる変化に身体が付いてこないのだ。だが、ここで負ける訳にはいかなかった。


 また四人でいられるならば――――。そう思い、ナナコは歯を食いしばり、踏ん張り続ける。


 もう守の為だけに生きるナナコの姿はそこになかった。


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