第九話 共鳴
(俺はまた守れないのか……?)
目の前で零れ落ちる命を目の前に自問自答する守。
(なんでどいつもこいつも俺から大事なモノを奪うんだ……?)
己の心に問いかけても答えは返ってこない。
「誰が悪い」
「俺自身だ」
「俺自身?」
「そうだ。弱い俺が悪い」
「何を独り言をぶつぶつ言っているのですか?」
「うるさい」
それは一瞬の出来事だった。目の前で見ていた筈の未羽が全く追いかけられない程の速度で振り抜いた拳は、眼鏡男の硬い装甲を容易く貫き、片腕をもぎ取る。
「くっ、この程度。な、なぜ治らないのだ!?」
困惑している眼鏡男の方を気にする事なく、独り言をただただ繰り返す守。
「ならばどうする?」
「戦う力が欲しい」
「ならばどうする?」
「繋がった」
「そうだ、今は繋がっている」
そう言っている間に守の中にナニかが入り込んで、身体が創り変えられていく。
「来た! ついに来たのじゃああああああ!!」
突然けんじぃが叫び出すと同時にナナコが『紅鉈』で首を切り落とす。何か重要な事を言い出しそうだったが、隙を見逃す程余裕はないのだ。
だが、首だけになってもけんじぃは動き出す。地面に落ちた自分の首を持ち上げ、守の方へ向けていた。
「邪魔をするなあああ!!」
『黒蛟』が周囲で暴れ出す。それによって瑠璃の補助のないナナコはけんじぃから距離を取るしかなかった。
「首を落としても死なないとか……。あれ?」
デジャブを感じているナナコだったが、今はそれどころではなかった。血だまりに沈む瑠璃と真っ白に染まった守。赤く輝く血管だけが妙に存在感を増していた。
「ナナねぇ大丈夫?」
先程まで守と一緒に戦っていた未羽だったが、危険と判断し、ナナコの隣まで戻っていた。
「私は大丈夫。だけど守が……」
目の前では今も変化し続ける守の姿と、片腕が治らないで血が吹き出して騒いでる眼鏡男。
「何であいつの腕が治らないのかしら……」
ここにいるメンバーもそうだが、強化されたゾンビの殆どが再生能力が高かった。欠損する程のダメージを与えられなかった為、これまでの状況から判断は出来ないが、あの反応からしても再生する筈だったのだろう。
だが、眼鏡男の腕は治らない。ナナコと未羽にはこの現象に心当たりがあった。
「瑠璃ちゃんの能力がまもにぃも使えてる……?」
そう、今守が無意識に使ったのは瑠璃の『回顧』だ。瑠璃の『回顧』はゾンビを通常の人間に戻す。だが、それは瑠璃の体質が元々大きく関わっていて、守には当然そんな事する力はなかった。
あえて近い力があるとすればナナコの『血操』だが、治すのと侵蝕するのでは同じ結果になったとしても全く中身は違う。
そんな瑠璃だけの力を目の前で守が使っていた。
「どういう事……?」
「ボクにもわからない。けどこの感じは」
守の悲しみが守の血を通じて伝わってくる。己の無力さ、後悔、懺悔。負の感情が二人にも溢れだしてきた。
「なんだろう、今すぐまもにぃのとこに行きたい」
「うん。私も守を抱きしめたい」
気が付いた時には二人とも涙を流していた。
「『共鳴』じゃ」
横に並び立つのは先程まで死闘を繰り広げていた相手であるけんじぃ。咄嗟に構えをとろうとするもけんじぃに戦おうとする様子はない。
「『共鳴』?」
今のこの気持ちにも何か関係しているのだろうか? 二人はそれが気になり、攻撃に移れなかった。さらにいえば、いつの間にかけんじぃから敵意が失せていたのも攻撃を躊躇してしまった原因である。
「うむ、そうじゃ。これは――――」
けんじぃ曰く、守の血を中心に四人がお互いの感情を『共鳴』しあっているのだという。今感じている感情は守が今想っている感情であり、二人とも守の感情の影響を受けているらしい。そしてこれがこいつらの思惑通りに進んでいる事もけんじぃの表情から悟ってしまった。
「ですが、『共鳴』しているといってもなぜ守が瑠璃ちゃんの『回顧』を使えるようになっているのですか?」
感情が『共鳴』しているのはわかったが、それと瑠璃の力が守も使える理由にはならない。他にも理由があるはずだった。
「それはじゃ」
その時、けんじぃの動きが止まった。ピタりと動かなくなり、まるで機械の機能が停止してしまったようだった。そして周囲を『黒蛟』で覆われてしまった。
そしてそのままぐんぐん大きくなる『黒蛟』。まるで本物の大蛇のようだった。
大きく口を開けていきなり二人に襲い掛かる『黒蛟』。二人は咄嗟に避けて戦闘態勢に戻る。
「一体、急に何があったっていうの……?」
考える間もなく再び襲い掛かってくる『黒蛟』に防戦一方になってしまう二人。どうやらこいつをどうにかしないと落ち着いて考える事も出来ないらしい。
「ナナねぇ、とにかく倒すしかないよっ!」
「えぇ……」
今もなお感情が流れ込んでくる状況に困惑しつつも目の前を見る二人。ナナコは一瞬だけ守の方を見るが、守であったモノは今もなお変化している事だけは傍から見てもわかった。
(守、待ってて)
気持ちを入れ替えると、目の前の『黒蛟』と戦闘を開始するのであった。
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