第二十話 瑠璃とナナコの戦い

 守は、未羽を離すとナナコと瑠璃の方へと振り向く。未羽を見ると、少し恥ずかしそうにしていたが、守と目が合うと、はにかんですぐにいつもの未羽に戻った。


「けど、まもにぃ。今のナナねぇはヤバいよ? まもにぃの幼馴染さんも何だか凄そうだけど」


 今も無数の『紅鉈』を自在に操り瑠璃へと襲い掛かっている。それを瑠璃は飛び回って避けつつ、かまいたちをナナコに当てながら交戦している状況だった。


「わかってる。だが、何とかしないとな」


 未羽の頭を優しくひと撫でし、守は力を込めた。一度解けていた『全身硬化』を再び全身に巡らせる。あの中に突撃するのだ。どんなダメージを受けるかわからない。


 それと同時に隣の未羽も『身体強化』を再び纏って木刀を黒刀へと変えている。


「まずは俺がタイミングをみて突っ込む。未羽は俺に二人が気を取られたタイミングで来てくれ」


 台風のようになっている内部に未羽がいきなり入るのは厳しい。少しでも隙間があればいいのだが、とてもじゃないが現状その隙間は存在しなかった。


「じゃあ行くぞ!」


 守は駆け抜ける。攻撃の範囲内に入った途端、無数に存在する『紅鉈』の一本が守の肩に突き刺さる。守の硬度をもってしても弾き返す事は難しいようだった。


 刺さった『紅鉈』を投げ捨てると瞬時に肩の傷が修復され、守は再び走り出した。そしてナナコは『紅鉈』を通して守の血を吸収した事で守が近くまできている事に気付いた。


 ナナコはどこに守がいるのか周囲を確認したいが、それを瑠璃が許さない。視線を逸らそうとした隙を狙ってかまいたちがナナコに襲い掛かる。一歩反応に贈れてしまったナナコは慌ててそれを『血界』によって防御した。


「邪魔をしないで!!」


 かまいたちを防いだ事で役目を終えた『血界』を、ナナコはそのまま爆発させた。すると『血界』は、散弾銃のように降り注ぐ凶器となって全方向に襲い掛かる。


「なっ!?」


 ナナコまであと一歩のところだった守だったが、その凄まじい威力に吹き飛ばされた。瑠璃は被弾を多少受けつつも、上昇する事で大半を避け、その場にとどまっている。


「ナナコさん!!」


 身体中をズタズタになりながらも修復するのはほどほどに、そのままナナコへ向かって走り出す。守の叫び声によって漸く守の位置を確認したナナコは、一瞥するだけで再び瑠璃の方へと視線を向けた。


「くそっ! ナナコさん、やめるんだ!!」


 吹き飛ばされてしまった守とナナコの距離は遠い。ナナコは守からの言葉を無視して血だまりの中から『紅鉈』を無数に浮き上がらせる。そしてその内の一本をナナコは掴み取ると、空中にいる瑠璃に向かって全力で投げ込んだ。


「なっ!?」


 予想外の攻撃に回避に遅れた瑠璃は急いで避けようとするも、『紅鉈』が翼に突き刺さり、地面へと落とされてしまった。


「きゃっ!!」


 落ちたところに向かって走り出していたナナコは瑠璃の頭上へと飛び上がりそのまま踏みつぶそうとするが――――。


「ナナねぇ、そうはさせないよっ」


 『紅鉈』とかまいたちの動きが止まった事で未羽が動き出し、跳んでいる最中のナナコを突き飛ばした。突き飛ばされたナナコは空中で姿勢を戻すとそのまま地面へと着地する。そして冷たい視線を未羽へと向けた。


「未羽ちゃん、これはどういう事かな?」


 殺気の篭った瞳を向けられた未羽は、その気迫に一瞬怯みかけるが、すぐに気持ちを持ち直す。


「ナナねぇ! もうやめようよ!! まもにぃにもう会えたじゃん! それじゃあダメなの? まもにぃの幼馴染さんを殺して何になるのっ?」


 そんなナナコの事も心配している未羽の言葉を聞いても眉一つ動かさず、血だまりから出来た『紅鉈』を淡々と未羽へ飛ばしていった。


「ナナねぇ!?」


 いきなりの攻撃だったが、未羽は瞬時に全てを見切り、全部避ける事が出来た。だが、避けるだけではダメだった。その後ろには瑠璃がいるからだ。


「しまった!」


 未羽は遅れて本当の狙いに気付き、『紅鉈』を掴もうとしたが、少し遅かった。凄まじい速度で『紅鉈』は瑠璃へと飛んで行った。瑠璃は避けようとするも、翼に食い込んだ『紅鉈』が抜けず、逃げる事も出来ない。


「るぅ!!!!」


 守は必死に手を伸ばすが『紅鉈』へ届く事はなかった。



 そしてそのまま『紅鉈』は瑠璃の首を刎ねるのであった。


 

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