第二十一話 守の後悔とナナコの後悔
「あははははははっ!」
ナナコの笑い声が響き渡る。地面に転がる瑠璃の首を潰してとどめを刺そうと歩き出すナナコの前に『全身硬化』を解除した姿の守が立った。
「守、邪魔だよ?」
日常会話でもしているかのように、穏やかな笑顔をナナコは守に見せているが、その中身は狂気が渦巻いている。
「ナナコさん、もうやめよう」
守は意外な事に感情が凪のように穏やかだった。なぜここまで落ち着ているのかはわからないが、怒りに任せない事に未羽が安心している。だが、守の強い意志をもってナナコに問いかけても、ナナコにはその気持ちは伝わっていない。
「私にとってその子は邪魔なの。ねぇ、守。全部終わらせてまた一緒にいよ?」
「俺が全て悪かった。目の前から急にいなくなって……。ナナコさん、寂しかったんだよな?」
その言葉にナナコの表情が一瞬揺らぐがまた嗤い出した。
「何言ってるの? もうずっと一緒だからいいのよ。だからどいて。トドメを刺すわ」
守をどかそうとするが守は一歩も動かない。それを不快そうな表情で睨むナナコ。
「何でよ! こんな世界になってから私の方がずっと、ずっと、ずっと!! 守の傍にいたわ! ただ、私は守の傍にいられればいいだけなのに。なのにどうして!!」
ナナコの怒りと共に血だまりから『紅鉈』が現れると、守に向かって飛んでいく。
「まもにぃ!!」
未羽が慌てて守の前に立ち、『紅鉈』を弾き返す。だが、無数に浮かぶ『紅鉈』の全てを弾き返す事は出来ず、何本もの『紅鉈』が守へと襲いかかった。
それを守は防御する事なく、全て受けていった。無数に傷は増え、腕が吹き飛び、身体からは臓物がこぼれ落ちる。
だが、その傷は瞬時に修復し、元に戻ってしまった。
「まもにぃ……?」
守はゆっくり未羽へと近付くと首を横に振り、優しく横へズレてもらう。守は再び、ナナコの方へ振り向いた。
「ごめん。俺はずっとるぅしか見ていなかった。いや、るぅを見るって事を言い訳にして現実を見てなかった。ずっと俺の事を想ってくれていたナナコさんの気持ちを受け止める勇気すらなくって……」
「うるさい! うるさい! うるさい! ……うるさい!!」
守の言葉を拒絶するかのように最初は叫んでいたナナコだったが、徐々に攻撃は減っていく。そして、ついには攻撃が止んだ。
膝から崩れ落ち、涙を流すナナコ。守は動く事が出来ない。
「私はどうすればいいのよ……」
「ナナコさん……でしたっけ? 私は大丈夫」
一斉に聞き覚えのある声の方へと振り向く。そこには首だけになった瑠璃が普通に目を開け、こちらを見ていた。
「るぅ……?」
「まぁくんなぁに?」
「なぁにってるぅ? 今の状況わかってるんだよな?」
全員が固まっていた中、いち早く立ち直った守が瑠璃に質問を続ける。
「わかってるわ。そしてこのままじゃ私が死んでしまう事も……ね」
守以上に再生能力が高い瑠璃であっても首だけでは生きる事は厳しい。むしろ今生きている事が奇跡であり、いつ死んでもおかしくなかった。
「瑠璃さんでしたよね……? ごめんなさい。私のせいで」
「さっきも言ったけど大丈夫。ナナコさんも気にしないで。まぁくん、私を持ち上げてもらっていい?」
訳もわからないが守は瑠璃を持ち上げる。首の断面図からは今も少しずつ血が流れだし、徐々に瑠璃の力が弱まっているのがわかった。
「持ち上げた! るぅ、俺はどうしたらいいんだ!?」
焦る守に対し、瑠璃は落ち着いた様子で目を閉じている。
(これが狙いだったの……?)
今は余計な事を考えている時間はなかった。目をゆっくり開けると瑠璃は、
「まぁくんの血を私にかけて。出来るだけたくさん」
「俺の血……?」
守は困惑した様子で首を傾げる。
「そう、私が助かるにはそれしかないわ。悔しいけど……」
「悔しい? と、とにかくるぅに俺の血をかければいいんだな? わかった。ナナコさん、るぅを持っててくれないか?」
黙って頷いたナナコに守はゆっくりと瑠璃を渡した。そして守は自ら腕に噛みついた。
「そ、そんな事しなくたって私の『紅鉈』で!」
「いや、他のモノを一切入れたくないんだ。だけど、ありがとう」
口の中に久しぶりに血の味が拡がっていった。あれはそう、目の前にいるナナコの首を噛んだ時だった。
(何だかまだそんなに経ってない筈なのに懐かしいな……)
しみじみとなってしまいそうになる守だったが、このままではいけなかった。
「いくぞ」
腕から流れ出している血を瑠璃の頭からかけていく。流れ出した血はそのまま目を閉じている瑠璃の顔を流れ、下に垂れる事なく吸収されていった。
「……何も起きないわね?」
暫くしても何も変化のない瑠璃の様子に三人は首を傾げていたが、瑠璃が目を開けた事で変化が訪れた。
まず、瑠璃の首が小さくなった。
驚いて落としそうになったナナコだったが、しっかり掴みなおす。
すると次には首から下が徐々に新しい身体が生えてきた。だが、その姿は本来の瑠璃より小さく、小学生くらいのサイズで腕から順々に生えていく。
そして最後に脚まで生え終えた時、そこには生まれたままの姿で、未羽よりさらに小さい、小学生位の可愛らしい女の子が立っているのだった。
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