第十九話 守の心の中の呪縛
未羽の苛烈ともいえる攻撃はやむどころか、より激しくなっている。守はそれを避ける事も出来ず、ただ必死になって受け止める事しか出来なかった。
(これはきつい……!)
一撃一撃は今の守にとってそこまで重い一撃ではなかった。だが、手数が半端ではなかった。絶え間なく集中砲火を浴びるように攻撃を受け続ける守は、この状況に焦りを感じ始めていた。
まず、身体を丸め、腕で顔を隠している為、周囲の状況が見れない。そうなると瑠璃とナナコの戦いを確認できなくなってしまう。焦って少しでも見ようと間を空けるとその瞬間を狙っていたかのように隙間に向かって黒刀が突き刺さってくる。
「まもにぃは鈍間だし亀さんかな?」
未羽の煽りに対しても何も言い返せない。それ程に余裕がないのだ。
「まもにぃはこのままでいいの?」
未羽はずっと守に問いかけるように聞いてくる。だが、守はその一つ一つを返す事が出来ていない。本人にもわからないのだ。
確かに瑠璃に対し、ゾンビになる前に守る事を誓った。だが、それは妄信的にただ瑠璃を守る事ではない筈だ。頭ではわかっている筈なのに、なぜか行動に移せない。目の前で瑠璃に何かあれば、自分が傷つこうとも向かってしまうのだ。
守は自分自身への呪縛に気付いていなかった。
その間も攻撃は続く。いくら守の防御が硬かろうと徐々にダメージは増えている。傷口は塞がっている為、表面上は何もないように見えているが、血を流し、打撲等は治ってもすぐに増えていく。
(このままじゃまずい)
守は何とか打開策を考えているが、今の未羽の速度の前では何出来ない。万事休すかと思われたその時、不意に攻撃の手が止まった。
守は罠の可能性も考慮し、恐る恐る顔を出す。すると、そこのいたのは『身体強化』が解け、ただただ涙を流す年齢相応の少女である未羽だった。
「未羽……?」
予想外の状況に守は構える事も忘れて立っている事しか出来ない。だが、未羽の涙は守の心に強く刺さり、呪縛にヒビを入れる。
「ねぇ、何でまもにぃはボク達を捨てたの?」
「い、いや捨てた訳じゃ――――」
守は目の前の事から目を背けるように未羽から視線を外そうとする。だが、未羽はそれを許さない。逃がさない。
「じゃあ何ですぐにボク達のところに戻ってきてくれなかったのさ!! ボク、ボク寂しかったんだから。もうボクにはまもにぃとナナねぇしかいないんだよ……」
未羽は既に両親を亡くしている。よりどころは守とナナコしかいないのだ。ゾンビになった時も、二人と一緒であれば怖くなかった。むしろ二人と一緒になれた事を喜んでいた位だ。
だが、置いて行かれた事がわかった時、ナナコが先に心が乱れていたから未羽は泣く事が出来なかった。精神的に危険だったナナコを懸命に慰め、自分自身を鼓舞していた。
だが、実際には未羽も泣き叫びたかった。それ程までに未羽にとって守とナナコの存在は大きかったのだ。
守は今までで一番弱っている未羽の姿を見て、先ほど攻撃を受けていた時よりも強い衝撃を受けていた。
(俺はどこかで間違えていたのか……?)
自分の中にあったナニかが砕けていくのがわかった。今まで靄がかかっていたかのように曇っていた心が晴れていくのがわかった。
目の前では未羽が泣き、すぐ近くではナナコと瑠璃が殺し合っている。守はこんな事を望んだのか。
「違うだろ……。俺はこんな状況にする為にるぅを守るなんて思ってたんじゃない。確かに俺はるぅを守ると誓った。だけど今のこんな状況がるぅを守っているなんてとても言えやしない。遥さんがここにいたら殴られてるな……。未羽、ごめん。俺が間違ってた」
『全身硬化』の解けた守はゆっくりと守は未羽に近づき、優しく包み込むように抱きしめる。守に触れられた瞬間、ビクっと一瞬なったが、いつもの守だとわかると、すぐに力が抜けていく。
「まもにぃ……」
潤んだ瞳で守を見つめる未羽。守は今度はそれを真正面から受け止めた。
「未羽、俺はナナコさんにもしっかり謝りたい。だけど、その為には今の状況じゃダメなんだ。二人を止める為に協力してくれるか?」
その強い意志は未羽にも伝わってきた。未羽は頷くと、再び守の方を見つめる。未羽から見える守の姿は、いつもの穏やかに微笑む守だった。
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