第十五話 『双骨』
「ギャハハ、ギャギャッギャッ!!」
守の拳が深々と腹に突き刺さる。だが、そんな事は気にした様子もなく、嗤いながら守に反撃をする『フンフ』。
それを避ける為に突き刺した腕を外そうとするが、刺さった部分が固くなっていて外せない。簡単に『フンフ』はそれを許さなかったのだ。
「ニガズガアアアアアアア!!」
今度は『フンフ』が守を殴る。殴る! 殴る!!
『全身硬化』によって硬くなっている守。それによって逆に殴っている『フンフ』の腕が潰れていく。だが、そんな事はお構いなしに『フンフ』は殴り続けた。
すると満足に防御も出来ていない守は、徐々にダメージを蓄積させられ、ところどころ出血していく。もはやどちらの血かわからない程に血塗れになった二人だったが、守が無理矢理腕を外した事で一度距離を取った。
すると、二人は傷付いた部分から時間が巻き戻ったかのようにすぐに元に戻っていった。
「ちっ、キリがないか……?」
思わず舌打ちする守に、イライラした様子を見せている『フンフ』。邪魔をする守に憤慨しているようだった。
「ナンデジャマヲズルノオオオオ? ママ? ママガラモナニガイッデ?」
『フンフ』の言葉に瑠璃は反応し、勢いよく『フンフ』の方を振り向く。
「アガアアアガガッガアアアガガア」
苦悶の表情を浮かべている母親なんて無視しながら、ブチブチと皮膚を破きつつ母親の口元の糸をちぎっていく。口元からは血が滴り落ち、破れた皮膚の先にある肉が露わになる。叫んでいる口の中は既に血だらけで、とても痛々しかった。
「ママ! コイツガカゾクノダンランノジャバヲズルンダヨ!」
傷だらけの母親が、ピクピクと痙攣するようにゆっくりと口を開く。
「イタイ、イタイ、イタイ、イタイ」
「マ、ママ?」
瑠璃の幼い頃から既に病に侵されていた瑠璃の母親。まともに声を聞く事が出来た回数は数える位だったが、その声は確かに瑠璃の母親の声だった。
「イタイノ、アタマモ、ナクナッタハズノカラダモ。ルリ、ルリハソコニイルノ?」
血の涙を流しながら必死に瑠璃を探す瑠璃の母親。その姿を瑠璃は追いすがるように、手を伸ばして『フンフ』の元へ走り出そうとしていた。
「ダメだ!!」
守が咄嗟に瑠璃を背中から捕まえる。
「離して! ママが、ママがそこにいるの!!」
何とか守を引き剥がそうとするが、守の方が力も強い為、引き剝がせなかった。瑠璃は暫く抵抗していたが、徐々に力抜け、諦めたのか、嗚咽していた。
ゆっくりと拘束を解くと、瑠璃はその場で泣き崩れてしまった。
「ルリ、アナタノスガタガサイゴニミタイ。ソノカラダヲダキシメタイ。ルリ、アナタヲ……ワタシタチノナカデイッショニイヨウ、アガアアアア、アタマガイタイ。ガマンデキナイ。…………私を誰か殺し――――」
グシャッ。
一瞬、確かに瑠璃の母親は正気に戻ったように感じた。その瞬間に『フンフ』が母親の顔を叩き潰したのだ。守りたくて、助けたくて頑張った父親がその顔を叩き潰す。その姿を目の当たりにした瑠璃はその場から一言も喋る事も、瞬きする事すらも出来ず、ただ、ただ見ている事しか出来なかった。
「ホラ! ママモイッショニイダイッデイッデル!」
グシャグシャと自分の救いたかった存在を殴り続ける『フンフ』の姿を見て、守は怒りを抑えられなくなっていた。その姿が自分と瑠璃の未来を見せられているように感じてしまったからだ。
「なぁ、自分の奥さんを助けたかったんじゃねぇのかよ。守りたかったんじゃねぇのかよ!!」
思わず叫ぶ守の声を聞いても全然気にする様子もない『フンフ』は、嗤いながら守に向かって走り出した。
「もう許せねぇ。絶対許せねぇ!!」
守は奥の手を出す。
「があああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
自らの両肘をクロスするように掴み骨をゆっくりと抜き出す。その骨は守の影響を受けてか、まるで黒曜石のように黒く輝いていた。完全に抜き出した二本の骨は、先が曲線を描き、まるで守が前に持っていた『三徳釘〆』みたいだった。
「『
守はこちらに向かって走ってくる『フンフ』に向かって『双骨』の片方をハンマーのように振り下ろす。それを防ごうと右腕を前に出した『フンフ』だったが、『双骨』はその腕を容易く叩き潰した。
追撃を与えようと距離を詰めようとした守だったが、本能で危険を察知した『フンフ』が、この時に初めて自らの意思で後ろに下がる。
「おい、逃げるなよ、クズ。るぅに危害を加える者を俺は決して許さない」
『双骨』を『フンフ』に向け、守は宣言したのだった。
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