第十四話 瑠璃の両親

 扉を開けた先は、ただただ広い部屋になっていた。守が前、瑠璃がその後ろに続くように部屋の中へと入っていく。入って最初に感じた事は、先程まで感じていた嫌な匂いと死の匂いが嘘のように消えていた。


「この部屋は……」


 中を見回してもただ天井から壁、床まで全てが真っ白なだけの空間だった。テーブル一つすらないその空間の中で守と瑠璃は真ん中まで歩き進める。警戒しつつゆっくり進むもゾンビどころか物音一つなく、耳にはキーンっと耳鳴りが聴こえてきていた。


「なぁるぅ? ここって前にも来た事があるんだよな?」


 後ろを振り向いて守は瑠璃に確認を取ると、


「えぇ……。けど前にはこんな部屋なかったわ」


 その表情には困惑している様子が現れていた。


「そうか。最悪この辺の壁をぶち破って無理矢理他の場所に向かうんだが――――」


『それは困るのでやめたまえ』


 突然どこからか眼鏡男の声が流れて来た。慌てて瑠璃が守にくっつき、守が抱きかかえるようにそれを支えた。


『おやおや、お熱いことで』


「うるさい、何が目的だ」


 この眼鏡男のペースで話をしても意味がない事はショッピングモールで学んでいた守はさっさと要件を言うように圧力をかける。


 だが、この男にはそんなものは通じない。一般的なゾンビであれば本能的に近づかなくなる程の殺気を放ってもいくら画面越しとはいえ、浴びているにも関わらずペースを乱す事はない。


「そんな、ちょっとは一緒にいた仲ではありませんか。それに我らは清華 瑠璃様を想う同志。仲良くできませんか?」


「ハハハ、同志だってんだったらさ、今お前らが何をしようとしてるのか教えてくれたっていいんじゃないか?」


 どうせ答えないだろうと、話半分で守が言うと、意外な答えが返ってきた。


「構わないとも。そうだね、これはそこの瑠璃様が事の発端でね? とても不思議な力をお持ちなのは君もご存じであろう?」


「あ、あぁ」


 明るい調子でどんどんと話を進めていく眼鏡男。何だか嫌な予感を守は感じてきていた。


「やはり君は話が早くて助かるのだよ。そう、その力を我らがあの方が求めているのだ。今のこのゾンビ共はその副産物さ。とある国でこれをそのまま軍事転用出来ないかと聞かれてね? そんな事聞かれたら試してみるしかないだろう? そうだろう?」


 声だけでもあきらかに眼鏡男が興奮しているのがわかる。それとは反対に守と瑠璃のテンションは下がる一方だった。


「ね、ねえ! パパとママはどうしてるの!?」


 瑠璃が後ろからずっと気になってきた事を聞いた。ここに来るまでに少なくともゾンビを含め、瑠璃の両親の姿はなかった。


「瑠璃様の父上と母上だね。大丈夫、元気だとも。良き協力者。これから君達に挨拶したいと言っているからそちらに向かっているよ」


 眼鏡男の言葉が終わった瞬間、天井が開く。すると突如、守と瑠璃の上からナニかが落ちてきた。いち早くその気配に気づいた守は、咄嗟に瑠璃を抱きかかえて後ろに跳んで離れる。


 ベシャッっという落下音と共に、そのイキモノは嫌な匂いと死の匂いを強烈にまき散らしながらカタチを整えていった。


「瑠り、そコにいたのか。さぁオいデ」


「え?」


「ワシの事がワカらないノカ? オヤフコウモノガッ」


 徐々に姿が変わっていくその異形のモノは、段々と、二人が見慣れた姿になっていく。


「パパ……?」


 瑠璃の声に満面の笑みを浮かべてゆっくりと二人へと近づいてきた。


「フヒヒ、ソウダパパダヨ! ソレニミテゴラン、ママモママモココニイイイイイイイイ!! ヒッヒッヒッヒイイイ!」


 瑠璃の父親が自分の胸元を抉り出すと、そこには目と口を糸で縫われた瑠璃の母親の顔が埋め込まれていた。


「嘘、嘘でしょ……? パパとママが、何で……。いや、いやあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


「るぅ!?」


 泣き崩れる瑠璃に近寄ろうとしたその時、いきなり瑠璃の父親の腕が伸び、守を凄まじい力で壁まで吹き飛ばす。


「カゾクノジカンヲジャマスルナ!!」


「ガハッ!」


 不意打ちをくらい、背中へのの衝撃で一瞬だが呼吸が出来なくなる守。苦しくはあったが、守はそこで立ち止まらなかった。


「『全身硬化』! ガアアアアアアアアアアアアア!!」


 瞳は真紅に染まり、全身が紫色に変化する。血管は仄かに赤く輝き、脈動は蠢いている。力を解放した守は、全力で抑えつけている腕を引きちぎり、そのまま掴んで振り回す。


 今度は逆に瑠璃の父親が壁にそのまま激突する。だが、それだけで守は止まらない。幸いにも瑠璃は蹲っている。振り回しても当たらない為、壁にそのまま擦り付けるように振り回し、腕が引きちぎれるまでそれを続けた。


 腕が引きちぎれ、ぐちゃっと壁に叩きつける音が鳴り響くと、それを気にする事なく、守は瑠璃の元へと急いだ。


「さすがオリジナルですね。我らが創り出した傑作『フンフ』をいとも簡単に投げ飛ばすなんてすばらしいです」


 興奮していく声に苛立つ守。守は瑠璃を傷つける者を許せない。瑠璃に近づくと、背中にはいつの間にか翼が生えてきていた。それも黒く染まり始めている。


「眼鏡野郎、覚えてろ。ここを終わらせたらそっちに行くからな」


「それは楽しみです。君達との再会をお待ちしてますね」


「イダイイ! イダイジャナイガアアアア!?」


 いつの間にか腕が再生している瑠璃の父親改め、『フンフ』は守を睨みつける。瑠璃が動けず、そのまま蹲っているだけだ。


 守は、瑠璃の前に立つ。これ以上瑠璃の両親の哀れな姿を見せたくなかったからだ。


「くそが。……るぅ、ごめん」


 瑠璃の方を一瞬チラリと見た後、再び前を向き、守が力を込める。そして力を込めたまま『フンフ』へと駆け出した。それに合わせて、『フンフ』も身体の面積を広げ、守を待ち構える体勢になった。


 そんな事を守は気にせず、『フンフ』と再び激突し、そのまま戦闘に移るのだった。


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