第十二話 侵入開始

 真夜中の病院。そこは昼間と違った雰囲気が漂っている。真っ暗な廊下。時折聴こえてくるのは患者の声か、それとも……。


「ねぇ、まぁくん? もうちょっとくっついてもいい?」


 瑠璃の声だった。


「え? もしかしてるぅ怖いの?」


「怖くないよ!! まぁくんが怖いと思って気を遣ってるんだよ!!」


 器用に小声で叫ぶ瑠璃の姿を見て、呆れた表情を見せる守。侵入したはいいものの、進むペースが予定より遅い。瑠璃が守にくっついてビクビクしながら移動しているからだ。そもそもそのくっついている存在がゾンビなのに今更何を恐れているのだろうか……。


 守は溜め息を吐きつつも、生温かい目で見守る。とりあえずは、瑠璃に合わせて歩き、周囲を警戒する事にした。ちょっとした物音に反応してビクビクしている姿を見るとつい悪戯したくなるが、場所が場所な為、我慢をしている。


 それに守は既にこの病院の異常な部分に気付いていた。いくら夜の病院とはいえ、のだ。夜の見回りをしている看護師もいなければ、就寝時間後とはいえ、患者が一人も出てくる事はない。瑠璃は気付いていないがこれは十分に異常な事だった。


 更に追加していえば、守は嫌な匂いと死の匂いを歩きながらも付近からも感じ取っていた。


(どのタイミングで襲い掛かってくるのだろうか?)


 敵はまだ守が匂いで相手を感知している事に気付いていない。守は敵のこの配置にそう判断していた。見た限り、瑠璃に戦闘能力はない。あの黒い翼に変化した時であればわからないが、現状の瑠璃は翼も消えている為、人間とほぼ一緒だ。


 つまり守は瑠璃を守りながら戦わなければならない。その為、極端な話だが、今の守は相手が人間だろうと襲い掛かってくる者は殺す覚悟でいた。その行為を見て瑠璃が悲しもうとそれは変わらない。それが守の誓いなのだから。


 動きがあったのは、病院内の地下への階段がある手前だった。突如、サイドの扉をぶち破ってきたのは一般的な人より一回り大きなゾンビだ。人間離れした肉体に、鋭い爪。垂らした涎が床に垂れるとその部分が溶けていく。


(あれはショッピングモールで未羽が戦ったタンクトップのゾンビとはちょっと違うが、似た雰囲気だ。他のゾンビとはどこか違うな)


「きゃっ!」


 考え込んでいる間に、破片が瑠璃と守に襲い掛かってきた。初動が遅れてしまった守は、咄嗟に前に出て破片の強引に弾き飛ばす。若干崩れてしまった体勢を見たゾンビはそのまま突進してきた。


 守は瑠璃を自分の背中に回し、己の右腕に力を込める。紫色に変化した右腕に真紅に染まった眼。血管が仄かに赤く輝き、脈動が蠢いている。部分的に強化した腕でそのまま突進を受け止めた。体勢が悪かった為、僅かに下がってしまったが、所詮はその程度で、突進を止める事に成功する。そのまま左腕にも力を込め、アッパーカットをくらわし顎を上げる。首が見えたところで右腕で首を掴み、そのまま捻り、首の骨を折った。ビクビクっと反応したのちにそのまま力尽き倒れるゾンビ。それを瑠璃は唖然とした表情で見ている事しか出来なかった。


(やばい、ちょっと過激すぎたか?)


 病院に辿り着くまでにそれなりにやらかしていた守であったが、ここまで過激な殺し方をした事はなかった。


 嫌われてもよかったが、避けられるのは守る側としても困る事だった。瑠璃の心境が心配になり瑠璃の表情を覗き見る。


 すると瑠璃が、


「まぁくん、かっこいい……」


 その言葉に守はびっくりしていた。てっきり怖がられるのも覚悟していたにも関わらず、瑠璃はキラキラした瞳で両腕の拳をグッと握り、守をかっこいいと言ってのけたのだ。


「俺が怖くないのか……?」


 思わず直球で聞いてしまう程度には動揺している守。言ってから少し後悔していた。


「怖くないよ。最初の時とは違うもん。まぁくんはまぁくん。ちゃんとわかってるから怖くないよ。この腕はみんなを守ってくれるかっこいい腕だもんね」


 まだ紫色のままになっている腕に無造作で触る瑠璃。ゴツゴツとしたその腕は既に人間のモノとはかけ離れているが、瑠璃が恐れている様子はない。本当に怖がっていないようだった。


「……ありがとう」


 守は頭を下げそうになったその時、他の扉からも次々と先程と同様の巨大なゾンビが現れた。


「おいおい、患者さんが起きちまうだろ」


 患者なんてこの病院には既にいない事に守は気付いていたが、思わずツッコミたくなる。それほど遠慮なしに周囲をぶっ壊しながら突っ込んでくるゾンビ達に守は思わず苦笑いしてしまった。


 だが、そのままこちらも遠慮する訳にはいかない。こちらには瑠璃がいるのだから。


「るぅ、離れるなよ」


「うんっ!」


 間近まで迫ってくるゾンビ達に守は気合を入れ、突き進んでいくのであった。


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