第十一話 交差

「先日、××市の市民の方から投稿されたこちらの映像からです。ご覧ください。映画などでよく知られる『ゾンビ』とよく似た生き物? が映っているのがお分かりいただけるでしょうか? こちらのゾンビですが、通行人に襲い掛かっている姿が多数目撃されています。噛まれると重度の発熱が確認されています。周辺の市民の皆様は戸締りをし、なるべく外出を控えてください。繰り返しお伝えします。先日――――」


 街頭にある巨大なテレビ画面に流れている映像は見ている人にとって衝撃的な内容だった。一部モザイクは入っているが、コメンテーターが話しているように、ゾンビが人々を襲っていたからだ。それでも働き続ける人々で溢れている現状が日本らしいと言うべきか。皮肉な生き物であった。


 そんな映像を一瞥して歩いていくナナコと未羽。あれから数日、ある程度の情報収集も終えてしまった為、ブラブラと歩き続けている。守を探したいところではあるが、流石に守の情報を見つける事は難しかった。ちなみに二人ともバッチリメイクをしている為、他の人からはちょっと濃いめメイクの普通の人間にしか見えない。


「もっと範囲を拡げて探してみる?」


 未羽はナナコに訊ねる。ここにいてもこれ以上の収穫はなさそうだったからだ。


「そうね……。ただ、問題はその行き先なのよね」


「うーん」


 二人はいい案がないか考えているが、何も思い浮かばなかった。


 しかし、そんな二人は急にピタリと立ち止まる。後ろの通行人が止まれずぶつかってしまうが、二人はそんなの無視していた。


「ナナねぇ、一瞬まもにぃの匂い感じた?」


 喜びの表情を浮かべた未羽がナナコの方を振り向いた。どうやら守は力を使った際に匂いが強くなるようだった。嬉しさを分かち合う為にナナコの表情を見たのだが、身の危険を感じてすぐに目を逸らす。ぶつかってしまった通行人もすぐに走って逃げだし、こちらに向かって歩いてくる通行人もモーセのごとく、左右に分かれていく。本能的に危険を察知しているのだろう。


「えぇ……。やっと見つけたわ」


 三日月のように口角の吊り上がったナナコは、守の匂いがする方へゆっくりと歩き出した。それに合わせ、未羽も歩き出す。


「待っててね、守♪」



 二人と守の再会の時は近い。







「るぅ、ここなのか」


 こちらも紆余曲折あったが、市街地の中心に守と瑠璃はいた。そして目の前には、この辺では一番大きな大学付属の病院。瑠璃が言うにはここが研究所らしい。確かに嫌な匂いや死の匂いが下からぷんぷんしているのを守も感じ取っていた。ショッピングモールにいた、けんじぃと眼鏡男の匂いもしている為、間違いない。けんじぃと眼鏡男の匂いを感じた事で瑠璃にした事への怒りが沸々と湧き上がってくる。


 それでもまだ暴れるには早かった。我慢して瑠璃の方へと振り向く。


「えぇ、おそらくここにパパとママもいると思うの」


 複雑な表情で病院を見つめる瑠璃。その表情を見て、守の心は冷静になった。瑠璃の心中が穏やかではない事が読み取れたからだ。そんな瑠璃を見つめて心配そうにしている守。出来る事ならその心配を取り除いてあげたいが、簡単には出来そうになかった。


 今は昼間な為、それなりに患者さんも来院している為、人の出入りも激しい。


(今行くべきか、夜まで待つべきか)


 侵入するのに人混みに紛れるか、それとも夜になってから忍び込むか。どちらにもリスクとリターンがあった。


「まぁくん。夜まで待たない?」


 守が悩んでいる間に瑠璃は既に答えを出していたようだ。


「一応理由を聞いていいか?」


 守は疑っている訳ではなかったが、瑠璃の理由がなんとなく気になり、訊ねてみる事にした。


「昼間だと、万が一の時に被害が大きくなってしまう。それに夜なら人目をあまり気にしないで地下に行けると思う」


「なるほど」


 守にとって被害が大きくなってしまう事がデメリットとなる事はない。だが、瑠璃は違う。わかってていて被害に遭う人々が増えてしまうのは精神的にきつかった。


 瑠璃の表情から夜の方がいいと判断した守は瑠璃と共に病院を後にする。その姿をモニター越しに確認している男が二人。けんじぃと眼鏡男だ。


 二人は既に守と瑠璃が近づいてきている事に気付いていた。だが、二人は傍観しているだけで今のところ何かする気はないようだった。


「おそらく夜にはこちらにやってくるでしょう」


 けんじぃと眼鏡男しかいない状況でも芝居がかった仕草をする眼鏡男に溜め息を吐くけんじぃ。治す事は出来ない為、既に諦めていた。


「こちらの準備も整っておる。今夜が待ち遠しいのぉ」



 二人との決戦の時は近い。


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