第九話 壁
「……何よ、これ」
ナナコと未羽の目の前には三メートル程の高さの壁があった。その壁は見渡す限りどこまでも続いていて、その先へは決して行かせまいとする意志がそこから感じ取れた。
「何でこんな壁があるのよ?」
「う~ん……」
無表情なナナコと困惑する未羽。そんな対照的な二人だったが、すぐに壁の向こうから生きている匂いが大量にし、逆に死の匂いが全くしていない事に気が付いた。
「ハァ、この街っていつから囲まれてたのかしらね?」
無表情のまま未羽に聞いてくるナナコ。それを背筋が冷える想いをしながら答える未羽。
「ボ、ボクにはわ、わからないや、アハハ、ハハハ」
所々から、監視してくる視線に嫌悪感を抱くナナコ。それを見て背筋がますます寒くなっていく未羽。
(まもにぃ。早くボクを助けて……!)
未羽は天にそう祈るがそれが報われる日は当分先になりそうだった。
時は守と瑠璃が飛び立った数時間後に遡る。
ナナコは気を失ってから数時間経った後に目が覚めた。
「う~ん……」
目を擦りながら周囲を確認すると、守の匂いがしない事にすぐ気が付いた。するとナナコは、走って近くにいた未羽に守がどこに行ったか問い詰めた。それはもう苛烈で身体をこれでもかと揺さぶられた未羽は必死になって守が三階へと向かっていった事が告げる。するとナナコは未羽が制止しても全くきかずに、三階に慌てて向かった。
だが、既に守の姿はそこにはなく、残っていたのは人間の死体と、何かが入ってたであろうケースが一台置かれていただけだった。
「未羽ちゃん、守って本当はどこに行ったの?」
「ひぅっ!?」
慌てて追いかけてきた未羽が思わず泣きそうになる程冷めた声。
(ナナねぇが怖いっ)
いつもであれば未羽にこんなつらく当たる事なんてないのだが、相手が守ではそうもいかない。ナナコにとって、守はもう隣にいなきゃ無理な程大きな存在になっているのだから。
(近くに守の匂いがしない。本当に守が近くにいない……?)
守がいないだけでナナコの心の中では今までにない程のパニックに陥っていた。
「守? どこに行ったの? 守? ねぇ……。私はここだよ」
迷子の幼子のように泣きそうになりながらフラフラと歩き出すナナコ。それを未羽が必死に抱き着いて止めた。
「落ち着いてナナねぇ! まもにぃは今どこにいるかわからないの! 翼の生えた変な女の人とどっか飛んで行っちゃったんだよっ!」
「変な女……?」
変な女にナナコは心当たりがあった。
(確か三階に守の幼馴染がいた筈だ。そうか、私の守を奪ったのはそいつなのか)
沸々と怒りが沸き起り、瞳が真紅に染まっていく。未羽との戦闘で更に力の増したナナコは人差し指を前に出す。
「『血操』」
すると微粒子となった血が誰にも認識されずにすさまじい速度で拡がっていった。そしてそれはこのショッピングモールだけに留まらなかった。
(きっともう近くにはいないわよね。けど……)
どんどん範囲を拡げていくが予想通り守が一向に見つかる気配はない。
「そんなのわかってるわ。だけどこれから守を見つけるには今より力が必要よね?」
何を言っているのか一瞬わからなかった未羽だったが、その数秒後、ナナコの元へたくさんのエネルギーのようなものが集まっていくのが直感でわかった。
それはこの周辺にいるゾンビの体内にある全てのゾンビウィルスで、ナナコはそれを自分の血で塗り替え、そのまま自分自身に取り込んでいた。
「ふぅ……、これでよしっと。待っててね、守♪」
未羽に目配せするとショッピングモールの外へとゆっくり歩きはじめる。それに従って一歩後ろを未羽が歩き出す。
(ナナねぇこわっ! めっちゃ優しかったのにまもにぃがいないとこわっ!)
誰にも邪魔される事なく静まり返ったショッピングモールを後にした二人は、なんとなく嫌な気配を感じる方向へと歩き出す。
二人が去った後、ショッピングモール周辺にゾンビの呻き声が一切聴こえなくなった。それは数日に渡って続き、ゾンビ達はナナコと未羽が去った後も何かに怯え近づく事が出来なくなったようだった。
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