第五話 衝撃の事実
中に入ると、そこには古めかしい丸いテーブルに座布団が四枚引かれてその一つには先程のおじいさんが既に座っていた。真ん中には煎餅などのお菓子が適当に入れられ、おじいさんが既に一枚煎餅を齧っていた。
どうしようか困っている二人だったが、ふと後ろから人の気配を感じ守が後ろを振り向くと、おばあさんがお盆の上にお茶を用意して歩いてきていただけだった。
「あんれまっ! そげなとこに立っとらんで座りなさいな。すかすじいさまの言う通り、めんこい子供がおるさね」
そのままでいる訳にもいかないので言われるがままに座る二人。二人は落ち着かず、周りをキョロキョロロしているが、普通の古民家なだけなようだ。
「あれま! ばあさまや、よく見たらこっちの顔色悪いでねーか? 早く布団の準備してやらんか?」
おじいさんの言葉に一瞬ドキッとする守だったが、二人の様子は本当に心配しているだけだった。
「ほんとだわ! 疲れてるんか? 今日はここでゆっくり休んでいくだよ?」
「あ、あの、俺の事見ても何とも思わないんですか! え、えっとゾンビとか……」
二人の様子に思わず直球で聞いてしまった守。ゾンビになってから普通に心配された事がなかったので焦ってしまっている。
「あ? ぞんびってなんだ? アケビか? アケビはこの時期には採れねーぞ?」
おじいさんは首を傾げながらテーブルにある煎餅をもう一枚齧っていく。軽快な音が心地よい。
「あ、いえ。何でもないです。お気遣いいただき、ありがとうございます」
お茶のお替りを急須で優しく注ぎ、瑠璃の方へ湯呑を渡すおばあさん。
「ほら、じいさま。こげな年寄りばっか話しててもつまんねぇべ。テレビでも付けてやんな」
「おうおう」
「あ、いえ。そんなお気になさらず」
瑠璃が遠慮するも話を聞いていないのかおじいさんはさっさとテレビを付ける。そこに映し出されたのはいつもと何も変わらない日常だった。
(こんな状況なのに普通に笑ってる……?)
テレビに映っている人々は今までの惨劇が嘘のように笑顔で溢れている。
「一体どうなってるんだ……?」
思わず声が漏れてしまった守。その声はあまりに小さかった為、誰にも伝わる事はなかった。
二人ともポカーンとした表情でテレビを観ていたが、暫くすると、おばあさんが飲み終わったお茶をお盆に乗せて立ち上がった。
「そっちの娘さ、これ観終わったら、風呂入って休まっせぇよ? おい、男どもは覗くでねーぞ?」
「は、はい。ありがとうございます」
上の空だった瑠璃は、ついそのまま返事をしてしまう。どうやらこの二人の中では守と瑠璃が泊っていくのは確定しているようだった。
いくら田舎? といえど、危ないと思わないのか? そう問いただしたい守だったが、どう口にしていいか、迷っていた。先程の直球で聞いた質問に失敗してしまった事で出鼻をくじかれてしまったのと、嫌な匂いどころかどこか懐かしさ漂うこの家の雰囲気に、ペースを乱されてしまっていたからだ。
「二人とも、よーく食べたさね! おれが風呂さ沸かすから、ばあさまは布団を敷いてくんな」
「あいあい、さっきもおんなじ事言ってじいさまは。よっこらっしょっと。あぁ、年は取りたくねぇなぁ」
守と瑠璃を残して動き出してしまった二人。守と瑠璃はどうすればいいかわからず、その場から動けないでいた。
すると、丁度映っていた番組が終わり、ニュースが流れだした。いくつかのニュースが流れてくるが、とあるニュースが流れてくると二人は固まってしまった。
『続いてのニュースです。疫病感染拡大を防ぐ為、依然として封鎖されている××市では――――』
キャスターが話すの同時に、何メートルにも及ぶ高さの壁がテレビに映し出された。その様子は物々しい雰囲気で、周囲を自衛隊が巡回していた。当然ながら××市とは二人が住んでいる市の事だ。
「疫病……?」
「封鎖?」
淡々と読み上げ続けるキャスターの話に二人は何も考える事が出来なかった。二人にとって、それほどまでに衝撃の事実だったのだ。
「疫病たぁ怖い世の中だのぉ。ほれ、お湯が沸いたで。どっちでもいいから早く入らっせぇよ」
後ろから聴こえた声に我に返った二人。目を見合わせると瑠璃が立ち上がった。
「あ、ありがとうございます。ではお先にお風呂をお借りしますね」
「おうおう。んじゃ案内するさね」
瑠璃が守の様子を見つつ動き出すも、守は一歩も動けなかった。ふと守がテレビ画面へ再び目を向けると、既に先程のニュースは終わっていて、新しい番組に切り替わっていた。守はそれを観る事が出来ず、テレビを消すのだった。
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