第四話 民家
すっかり落ち着いた瑠璃は恥ずかしそうに俯いていた。取り乱したのがよっぽど恥ずかしかったようだ。
「るぅ、顔赤くないか? 具合でも悪いのか?」
空気の読めない守は、心配して瑠璃に追及をしてしまう。すると、瑠璃は今度は違う意味で涙目になりながら守を睨む。その姿はいつもの瑠璃に戻っていた。
「まぁくんのバカ! おたんこなす!」
ポカポカと守の胸元を叩き、抗議をしている。そしてなぜ怒られているのかわからない守はとりあえず宥める為に瑠璃の頭を撫でた。
「ふにゃ~」
蕩けた表情をしてしまった瑠璃だったが、この程度で騙されない。いや、騙されているが。
「ダメだよっ! こ、この程度じゃ私は騙されないんだからっ! まぁくんはいつも策士だ。ずるいずるい!」
「策士って何もしてないじゃんか」
ベンチでは今までの時間を取り戻すかのように二人にとってのいつもの時間が流れていた。ちなみに既に瑠璃の背中には翼がない。翼を出すには守同様、力を込める必要があるようだ。
「さて、そろそろ移動しないか?」
「うん、そうだね」
夕日はすっかり沈み、辺りは既に街灯の灯りのみで殆ど真っ暗になっている。
(そういや、何でまだ電気が生きてるんだ?)
「なぁ、ここってどこなんだ??」
少なからず、今までいた場所で電気がまともに使えた場所はなかった。ショッピングモールもかなりの工夫と、あの連中がどこかから電気を引っ張ってきてたから使えただけだ。それでもかなり節電し、夜なんかは殆ど真っ暗だった。守は瑠璃の抱えられて飛んでいた為、どこを飛んでいて、どこを目指していたのか全くわからなかった。守が問い詰めようと瑠璃を見つめるが、瑠璃は守から目を逸らし、明言を避ける為にお口をチャックした。
「おい、まさか適当だったのか?」
「ふぉふぃふぇふぁ~ふぃ(おしえな~い)」
「はい、お口のチャック開けた! なぁ、それでようは適当だったんだろ?」
守は人差し指で瑠璃の唇をなぞる。柔らかい感触に守は一瞬ドキッとしたが、何とかバレないように平静を装った。ちなみに瑠璃もドキドキしている。この勝負はどっちもどっちだった。
「うっ、だ、だってどこ飛べばいいかなんてわからないし、偶々この丘が綺麗そうだなって思っただけだったんだもん」
「はぁ、るぅってそういうとこあるよな」
「むぅ、もうまぁくんなんて知らないっ!」
プイっとそっぽを向くと勝手に瑠璃が歩き出してしまう。目指している方向は丘の下の市街地だ。話に夢中だった為気付いていなかったが、市街地はかなり明るかった。
「ちょっと待てよ! 置いてくなって」
「やーだよっ!」
二人で丘を一気に降りていくと、そこには古びた民家が一件、ぽつんと佇んでいた。
「生きている匂いがするな……」
「生きている匂い?」
守の言っている事がよくわかっていない様子な瑠璃。今まで当たり前のように生きている人間とゾンビを見分けられていた守にとって、この状況はちょっと気まずかった。
(ナナコさんといるときの調子でつい話しちゃったな。るぅも違う匂いが混ざってるが普通に人間だ。俺とは違う)
「えっとな、俺って生きてる人間と、ゾンビの違いが匂いでわかるんだ。ん、そういえば、この周囲にゾンビの匂いがしないな。ここってまだ山だからゾンビが少ないのか?」
守の言葉に感心している瑠璃。やはり瑠璃にはそういった事がわからないようだ。
「へぇ、まぁくんはそんな事がわかるんだ。凄いね」
「うーん、凄いかわからないけどな? ナナコさんもわかったし」
「ナナコさん?」
瑠璃の背後から般若のようなものが浮かび上がっているように見える。さっきまで天使だった筈なのにおかしい。
「え、えっとな、ナナコさんってのは俺と同じゾンビでその人も自我があるんだ」
「へぇ~、仲良しさんなんだ?」
追い詰めるようにたたみかける瑠璃にタジタジの守。どう考えても分が悪いのは守だ。
「仲良しっていうか、一緒に生きた仲間だよ。うん、なか、うぇっ!?」
仲間と言った瞬間に背筋が凍るように冷たくなる。今この場には二人しかいない筈なのに守はナナコが近くにいるような気がした。
「どうしたの、まぁくん?」
背後の般若は健在なようだが、少しは話を聞いてくれそうな瑠璃に、守は必死になって説明をする。必死になったかいがあってか、とりあえずこの質問から解放される守だった。
そんな話をしている間にも民家の玄関前まで辿り着いてしまった。どうするか迷う二人。ちなみに守の化粧は戦闘などで完全に落ちてしまっている為、見た目は完全にゾンビだ。瑠璃はともかく、守が一般人の前に出るのは難しい、そう思っていたその時、玄関がいきなり開き、おじいさんが出てきた。それに反応して二人が身構える。
「あんれま? 騒がしいと思ったらめんこい子供が二人。こんなとこで何してるだ? まぁええ、もう暗いし、中に入りんしゃい」
おじいさんがそう言うと先にさっさと家の中へと入ってしまった。
見つめ合う瑠璃と守。このまま立っている訳にはいかないので、とりあえず瑠璃が先頭で家の中に入る。そして守はその後ろを恐る恐る入っていくのだった。
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