第三話 守の出来る事

「それじゃあ今起きてる原因って……」


「…………」


「るぅはこんな危険な実験だってわかっててやってたのか?」


「違うわっ! 私が聞いてたのはっ! ……私が聞いてたのは私の身体の細胞から採取した成分を元に、様々なケガ、病気を治せるようになる薬を開発してる事。そして、それが先日、最終段階に入って、もしそれが成功したらママの病気が治せるって言ってたの……。まさかこんな惨い事をしてるだなんて思わなかった。けどそんなの言い訳よね。だから……ごめんなさい」


 頭を下げる瑠璃の目からは涙が止まらなかった。それを今度は守が抱きしめる事も慰める事も出来なかった。


(簡単にるぅは悪くないなんて言えない。これは難しい問題だ。るぅが嘘を付いているとは思わない。だけど、実際に被害者がたくさん出ている。知らなかったですませていい問題じゃない。だけど――――)


「俺はるぅを許したい。いや、許すとか許さないとかじゃないな。るぅは悪くない」


 守の言葉を聞いても瑠璃の涙は止まらない。


「だけどっ! 私のせいでたくさんの人が死んで、ゾンビになって、ショッピングモールでも本当に辛かった。何も知らなかったのは私と遥さんだけ! その遥さんも連れてかれちゃった!! そしたら急に眠らされて、気が付いたら目の前にまぁくんがいて! まぁくんを見たら改めて私がまぁくんまでゾンビにしちゃった事を認識さしちゃって……! 頑張ったけど、まぁくんを人間には戻せなかった」


「戻すってのはあそこに上がってきたゾンビのようにか?」


「うん……。今のこの姿になってから私にも理屈はよくわからないけど、ゾンビだった人を治す力があるみたい……。ただ使える回数にも限界があったり、死んでしまってる人は戻したとしても死人に戻ってしまうだけだわ。ゾンビになったばかりの人なら生きた人に戻せるんだと思う。それもまぁくんを治せないなら意味ないよ」


 力があろうが都合よく扱えるとは限らない。それは守もよくわかっていた。守も最初の頃は苦労したからだ。


「そもそも、るぅは何で今の姿になったんだ?」


 おそらくあのケースに入れられていた事が関係している、そう守は思っている。


「今の姿……何で? 何で私には翼が生えてるの? わからない、わからないよっ!」


 急に頭を抱える瑠璃。呼吸は荒くなり、混乱しているようだった。すると、純白だった翼が真っ黒に染まってきた。それはまるで守が最初に怒った際に肌の色が変化した時を連想させ、守は焦りを見せる。


「るぅ、まずはとにかく落ち着こう。あそこにベンチがある。一旦座ろう、な?」


 そこにいつもの瑠璃の姿はなかった。学校では生徒会長もしていて、いつも冷静沈着。誰にでも優しく人望も厚かった。それが今の瑠璃は誰にも見せた事がないほどに感情は昂り、苦しそうにしている。


(やっぱ何かの影響を受けてるのか? こんなるぅの姿は初めて見た。出来ればもっと詳しく話を聞きたいけど、焦りは禁物だ)


 やはり瑠璃は何らかの影響を受けている。それは決していい方向ではないのはあきらかだ。守は瑠璃の姿にそう確信を抱いた。こうなってしまって守が瑠璃を放置出来る筈がない。選べる選択肢は一つしかなかった。


(ナナコさん、未羽、ごめんな)


「るぅ? これからの事なんだけどさ、俺はるぅとずっと一緒にいるよ」


 力強いまなざしで瑠璃を見つめる。はたしてそれが正しい事だとは守も思っていなかった。だが、守はそれでも瑠璃を守りたかったのだ。これは元々決めていた事であり、こんな状況でも揺らぐ事はなかった。


 ベンチに二人で座ると守が瑠璃の背中をさすった。すると、少しずつ翼の色は純白に戻り、感情も落ち着いてきたようだ。


「まぁくん、ありがとう。……こんな私の傍にいてくれるの? 人間じゃないよ、きっと」


 不安げな表情で守を見つめる瑠璃。その手は震えていた。守はそれに気づき、そっと瑠璃の手に自分の手を重ねる。


「何言ってるんだ。俺なんかゾンビだぞ? 俺は今度こそ間違えない。るぅは俺が絶対に守る」


 そう守が決意をし、ふと目の前を見上げると、そこには美しい夕日が二人を照らしていた。

 

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 この話で漸くカクヨムコン8の規定文字数、十万文字に達しました。ここまで頑張ってこれたのは読者様のおかげです。段々と内容が複雑化してきてわかりにくくなってきますが、作者も含め混乱しないよう、誰でも楽しめる作品を目指していきたいと思っています。もし、気になる事がありましたら気軽にコメントしてください。ネタバレにならない程度ならお答えできるようにします。


 そしてここからはいつものお願いです。


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