第十九話 恨まれてきた人間の末路

 二階に立つと、周囲は阿鼻叫喚の地獄絵図になっていた。そこかしこで人が襲われ、逃げ惑う人々は他人を押しのけ、我先へと逃げ場がないのに走り回っている。床を見ると、誰かに踏みつぶされたであろうぬいぐるみが泥だらけになって落ちていた。


(これはやばいな。三階へ繋がる防火扉も爆発したのか?)


 目視で確認しても煙が上がっている為、よくわからない。上からは悲鳴が上がっていない為、とりあえず被害は出ていないようだ。


(るぅの匂いはまだ三階に残っているな。だが……)


 少し様子がおかしかった。幼馴染以外に生きている匂いがしないからだ。


(とにかく先を急ごう)


 力が入らない身体に鞭を入れ、脚に力を込めようとしたその時、目の前を見た事がある女性が横切った。


(あれ、あの女性ってもしかして……)


 向こうもこちらに気付いたのか、慌てて立ち止まり、こちらに近づいてくる。


 アケミだ。


「あんた、こんなとこにいたの!? 私の護衛でしょ? しっかり守りなさいよ!!」


 アケミはいきなり守の胸倉を掴もうとしてきたので、それをスッと手で払うとそれに怒ったのか、ぎゃあぎゃあと喚きだす。


(めんどくさいな。そういや、この人はゾンビにならないんだな。あのタンクトップの男はゾンビになったのに。まぁいっか、どっちでも)


 同じ仲間でもどうやら扱いが違ったりするようだ。一階に来れた人間が信用できる仲間で、それ以外が二階に分けられたんだろう、と守は適当に思考を切り替え、そのまま無視して上へ行こうとした。


 だがその時、アケミの背後から男のゾンビが近づいてきている事に守が気が付いた。とうのアケミは守に向かってぎゃあぎゃあ騒いでいるので男のゾンビに気付いていない。そしてその男のゾンビは心なしかアケミに対する見方が違うように守は感じた。


(このゾンビ、アケミに恨みでもあるのか?)


 当時のあの女性ゾンビを思い出す。おそらくこの男のゾンビはアケミによる被害者なのだろう。守は知らせるべきか迷っていたが、その男のゾンビの様子を見て、そのまま無視して上へ向かう事に決めた。


(こんな状況でまだ護衛が、とかうるさいんだよ。嫌な匂いぷんぷんさせやがって。ここで死ぬのがお前には相応しい)


 手を払っても掴みかかろうとしてきたので守はとっさにアケミを投げ飛ばす。


「ぎゃっ!?」


 戦闘経験のない素人では受け身すら取れず、背中から真っすぐに落ちた。面白い程に綺麗に転ぶと、守はアケミを放し、そのまま力を入れて上へと跳んでいった。


「いったあああああ、もう、何するのよ!! ってあれ? クソガキ、どこに行ったの!?」


 腰から落ちたせいで起きあがれないアケミは座ったまま守がいた場所を見るがそこには既に守の姿はない。そして、守を探すように周囲をキョロキョロした時、アケミは気付いてしまった。


「え、ゾンビ!? ちょ、ちょっと待って。だ、誰か助けて!! 誰でもいいの! お金ならある! 私の身体も自由にしていい! だから、だから!!」


 叫んで周囲に助けを求めるが、誰も助けてくれる気配はない。ゾンビはゆっくりゆっくりと、アケミをわざと怖がらせるように歩いてきた。


「あれ、もしかしてあんた……。いや、こないで! ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったの! 許して。愛してるのはあなただけだから。ね? ね? あ、あ、あ、あ、ああぎゃあああああああああああああっ!! 痛い、痛いっ!! 放して! 私、ゾンビなんて、なりたくないっ!! あ、誰か助けて!! いぎゃああああああああああああ!!!!」


 ゾンビは首ではなく、肩や腹といった致命傷になりにくい部分を順番に噛みついていく。そこに宿る嗜虐的な瞳は、アケミへの恨みをはらさんばかりにアケミから噛みちぎった肉を味わうように噛み締めていく。


 暫く騒いでいたアケミだったが、次第に声は小さくなり、やがて周囲は静かになった。男のゾンビはアケミの最期を虚ろな瞳で観た後、他の獲物を見つける為、歩き出した。


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