第十八話 遥との約束
守は残っている力で慌てて体勢を整える。左腕はだらりとして力が入れられない為、立膝のような形で遥を支えているが、守自身にも限界が近く、そのまま右腕で遥を支えつつ、後ろに一緒に倒れこんでしまった。
「んぅ。あれ、……ここは?」
すると、その衝撃で遥が目を覚ましてしまい、寝ぼけつつも現状を確認する。上半身の服が破られ、胸部が露わになっている遥(なぜか傷だらけ)。そして目の前には守(男)。
慌てて飛び上がり、守から距離をとる遥。顔は真っ赤で僅かながらに残っている服でなんとか胸部を隠す。
「お前、いい度胸だな。お嬢様というものがありながら……!」
「ち、違うんです! お、俺はただ助けたかっただけで!」
「なぁにが違うんだ。まさか、お前に私を襲う勇気があるとは恐れ入ったぞ」
さっきとは違った殺気のようなものを感じ、守は慌てて弁明にするも遥が話を聞いてくれる様子はない。耳まで真っ赤になっている遥にそんな余裕はないのだ。
「と、とにかく周りを見てください!」
守の言葉に漸く周囲を見ると、遥は漸く冷静になったようだ。真剣な表情に戻っている。そこで守は自分の血まみれになっている服を脱ぎ、そのまま遥に被せる。
「汚れていますが」
「ふ、すまんな。恩に着る」
「いえ、お気になさらず」
遥は立ち上がると、もう一度周囲を見回し、目を細めている。
それに合わせて守も一度周囲を見回した。
遠くに見えているのは未羽とけんじぃが戦っている姿だった。
(ナナコと未羽が戦ってた筈だったんだが?)
守はナナコの姿を慌てて探した。すると、少し離れたところで横になっている姿を発見した。瞬時に匂いを確認し、何も異常がない事がわかり、ひとまず守は安堵する。
(ナナコも無事か。よかった)
そして再び未羽に目を向けると、未羽がけんじぃに突っ込んでいるところでちょうど上からタンクトップの男が二階から飛び降りている姿が見えた。
(あれは会議の時にいた男か?)
すると、そのまま未羽の上にのしかかろうとしている男の姿に守が慌てて声を上げた。
「未羽、危ない!!」
大声を上げながら慌てて飛び出そうとするが、守の身体は先程の戦闘で満身創痍だった。うまく動き出せず、一歩を踏み出せなかった。
間一髪、攻撃を避けた未羽は、続けざまに襲い掛かってくるタンクトップの男の攻撃を守も驚くような速度で避け、そのままカウンターであっさりと首を刈ってしまった。
「あの娘、強いな」
遥が獲物を見るような目で未羽を見つめている。
「前はあんなに強くなかったのですが、あ、いや、そうですね、強いです」
いまだに死の匂いが混ざっている未羽を見て余計な事は言わない方がいいと判断した守は、途中で話すのをやめた。
そして、先程タンクトップの男がいたであろう二階を見ると、そこには眼鏡男が立っていた。
「あいつ……」
守の声に反応して遥も同じ場所を見る。すると、遥の表情が一変した。
「あいつだ、私に何かしたのは」
相手側の誰かがやったのはわかっていたが、まさかあの弱そうな眼鏡男がやったという事実に驚きを隠せない守。
「私も襲い掛かってくるまではわかっていたのだが、まさか片腕を吹き飛ばしながら襲い掛かってくるとは思ってなかったよ。一生の不覚だ」
「片腕を吹き飛ばして……ですか?」
「あぁ、だがそれでは止まらなかった。そしてその油断した一瞬で薬を嗅がせられてな。大半の薬は効かない筈だったんだが……。私もまだまだ未熟だったのだろう」
怒りに燃えている遥の表情に守は背中に寒いものを感じる。
今にも飛び出していきそうな遥にどうしたものかと思っていたその時、何か喋っていた眼鏡男が指を鳴らすと、各所で爆発音が鳴り響いた。
「なんだ!?」
二人で周囲を見回すと、一階と二階を塞ぐ防火扉が、爆発で吹き飛ばされていた。それと同時に、今まで動きを見せなかったゾンビ達が一斉に二階へと歩きだした。
「遥さん、るぅが三階で眠っている筈です!」
「何!? それは早く救助に向かわないとっ!」
その時、遥に向かって複数のゾンビが襲い掛かってきた。
「邪魔だ!!」
ゾンビを蹴散らしていく遥だったが、多勢に無勢。負ける事は無くても一向に減っていかないゾンビの数に身動きが取れなくなってしまった。
「何で今頃ゾンビが襲い掛かってくるんだ!?」
「わかりません。あ、ぞんびが二階に向かってます!!」
「ちっ、先にお嬢様のところへ向かえ!」
「ですがっ!」
「私では間に合わん! お嬢様に万が一があっては困るのだ」
苦虫を嚙み潰したような表情で遥が叫ぶと、守は上を向く。二階から悲鳴が上がってきたからだ。
「わかりました。遥さん、ご武運を」
守が歩き出そうとした時、遥が守の肩を掴んで止める。守が振り向くと、そこには真剣な表情をした遥が守の目を見ていた。
「私が言った事を覚えているな? お前はお前のやり方でお嬢様を守れと」
「はい」
「それがわかっているならいい。すまんがお嬢様を頼む」
「勿論です」
遥に返事をした守は、痛む身体を無視して脚に力を込め、そのまま二階へと跳んでいくのだった。
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