第十二話 『全身硬化』

「遥さん、正気に戻ってください!」


「…………」


 守へと襲い掛かる遥。スピードでは守の方が優れている筈なのだが、距離の詰め方が恐ろしく上手だった。いつの間にか間を詰められ、逃げ場を失ってから受ける攻撃を守は避けきる事が出来ない。そして遥の指先が守に触れる度に傷が増え、それに耐えかねて、守が一気に距離を取る。守の治癒力であれば、すぐに完治する為、治ったらまた遥の元へと走り出す。さっきから二人の戦いはこれの繰り返しだった。守は遥に近づく度に声を掛け続けるが、どんなに声を掛けても守の声は遥に届く事はない。


 このままではどうしようもない事は守も理解している。だが、守は遥の事を諦めるつもりはない。


「るぅを放っておくなんて遥さんらしくないですね! このままでいいのですか!?」


 『るぅ』という言葉に一瞬反応するが、すぐにまた元に戻ってしまう。だが、守には遥が必死になって抗っているようにも見える。


(遥さんがそんな簡単に操られるわけがない。るぅの名前にも反応はあった。それに未羽と違って遥さんはまだ生きている匂いがする。何かを使って操ってる筈だ。それさえわかれば何とかなる筈だ)


 未羽は生きている匂いと死の匂いが混ざっている状態でコックと同じだった。どうやって死の匂いを誤魔化せたのかはわからなかったが、今の未羽はナナコに任せるしかない。未羽にせよ、遥にせよ、どうやって操ってるかまではわからない。だが、少なくとも遥は実験体ではなく、ただ操られてるだけだ。その操ってる方法を見つける為に守は行動に移った。


(遥さんとあの時会った時には特に異常は感じられなかった筈だ。てことは別れてからの数日間で何かをされたんだ。そうなると、薬よりかは何かを取り付けられた可能性が高いか?)


 遥からの攻撃を最低限避けながらも距離を詰める守。たとえ距離を詰める事が出来ても守から攻撃出来ないのは痛いが、万が一にも殺してしまっては元も子もない。とにかくその原因を絶つ事を優先していた。


(可能性的に脳、また心臓部に何か埋め込まれてるか?)


 確かに遥の攻撃には無駄がなく、洗練された動きではあった。だが、自我が無いからか、フェイントなどを混ぜた攻撃が出来ない。おそらく守が距離を詰められているのも遥の攻撃的本能が優れているからだ。それでも十分に脅威だが、自我がないゾンビならともかく、人間離れした守であれば多少耐える事も避ける事も可能だった。


 だが、問題は近づく事は出来てもそこから先に余裕がなかった。射程圏内に入った事で遥の攻撃は苛烈さを増し、守はそれに耐える事が出来ずに距離を取るしかない。


(これじゃあジリ貧だなぁ)


 どうにか戦況を変えたいが、今のままでは遥の攻撃を受けきる事は出来ない。今も遥の攻撃を受けて少し離れたところまで飛び跳ねた守は、遥から逃げながら身体中の痣を治している最中だった。


(それにしてもこいつら……!)


 守はこちらに向けられた視線にイライラして思わず舌打ちをしてしまう。ちなみに一階にゾンビは大量にいるが、男達の周りをウロウロしているだけで襲い掛かる様子は無い。おそらく一階にゾンビが大量にいる事自体が元々仕組まれていた事なのだろう。ショッピングモール自体が実験場で、現地人はそれに巻き込まれた哀れな生贄といったところだろうか。


(絶対に許さねぇ)


 今も戦っている状況を男達は次々と撮影し、メモを取っている。守達にとっては命がけな戦いもこの男達にとっては実験の一つでしかないのだ。その事実に沸々と怒りが沸いてくる守だったが、まだ爆発させる訳にはいかない。それは遥を元に戻してからだからだ。


(俺も覚悟を決めるべきだ。そんなに時間はもたないが、このままじゃ何も変わらない)


「『全身硬化』」


 守は全身に力を込めた。目が真紅に染まり、。これが守がコックとの戦闘後に得た特性『全身硬化』だ。たとえミサイルが直撃しようと無傷でいられる程の強度はそのまま攻撃にも通じる。だが、今回は攻撃がメインではない。遥の攻撃を少しでも抑える為に使うのだ。


(とにかく遥さんに近づくんだ。そこから何とか何か原因を探るんだ。これがラストチャンスだ。でも、もしこれでもダメだったら……)


 最悪なパターンも考えなければいけないかもしれない。言葉には出せなかったが、守は覚悟を決める。


 守の変化に周囲の男達の嬉しくない歓声が上がる。そんな事は無視して、守と遥の戦いは二回戦へと突入するのだった。


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