第九話 尋問

 結果からいくと守は何とか逃げられた。寝具屋に着いたところで会議室にいた男数人に守が呼び出されたからだ。ちなみに男達とは、会議室で守の事を嫉妬していた男達の事だった。


 アケミは男達の姿を見た時、あからさまに嫌そうな顔をしていたが、相手の立場がアケミより上のようで、守が連れていかれるのを我慢していた。


 そしてそのまま空き部屋へ連れていかれた守。その表情は無表情であり、相手に感情を見せない。それを男達はビビっていると勘違いし、ニヤニヤしている。


「おう、アケミに近づけて調子に乗ってんじゃねぇか?」


(そんな訳あるか)


 心ではそう思っているが、流石にそれを直接言う訳にはいかなかった。


 無言でそのままいる事で守が肯定しているのだと判断した男達が守の胸倉を掴む。


「あと少しでアケミを抱けたのにな? 残念だったな」


「あ、いや……」


「お? 何だ、納得いかんのか?」


(むしろ助かったんだが)


「なんとか言わんかい!!」


「ハァ……」


 話を聞いてくれる様子のない男達を見ていて思わず溜め息を吐いてしまった守。慌てて口を塞いだが、勿論男達に気付かれてしまっていた。


「何、溜め息ついてんだ! 殺すぞ!!」


 胸倉を掴んでいた男が守の顔面を殴った。しかし、紫色に変化しなくても既に固くなっている守の肌に男の方が苦悶の表情をしている。


「お前の顔どうなってんだよ!?」


「普通の顔だろ?」


 痛がった隙に腕を取るとそのまま捻って倒す。受け身も碌に取れず、身動き出来なくなった男は苦悶の表情をしていた。


「何してんだお前!!」


 守の動きに呆気に取られていた他の男達は、慌てて守に殴りかかり、倒された男から守を剥がそうとする。だが、守の力の前になすすべがなかった。先程の男と同様に殴りかかった男達の拳がただ痛くなるだけに過ぎなかったのだ。


 殴られてなお冷めた表情をしている守。その姿に男達が思わず距離を取ってしまった。その様子に守が溜め息を吐くと、掴んでいた男の腕を離して男達へ向かって蹴飛ばした。


「ぐはっ!!」


 そのまま転がった男に寄っていく男達を見下ろすように目の前に立つ守。


「一応俺はあの女の護衛だぜ? 舐めないでくれ」


「くっ! 護衛如きが何を! 俺達にこんな事をしたのがあの方に知られたらお前なんて消されるだけだぞ!!」


「あの方、あの方って言うが、あの方っての誰なんだ?」


 守の問いかけにたじろぐ男達。


「そんなに話せない事なのか?」


「はは、何も知らないなんて幸せ者だな。あの方はこの二階の支配者だ。三階の連中からも一目置かれている。あの人はすげえんだ。俺達なんかとは違う。あの方の事を話すなんて恐れ多いんだよ」


「ほお。それはさぞかし素晴らしい方なんだろうな? まぁ教えてもらえない奴の事はどうでもいい。では、次に聞きたい。実験体ってなんだ?」


 下の二人の為にも守に余裕はなかった。状況を有利にする為にも少しでもいいから情報を集める必要があった。


「はっ! それこそ、お前なんかに教える訳ないだろ!」


「これでもか?」


 倒れている男の手の甲へ脚を乗せると、男の指を一本、ゆっくりと踏みつぶそうとする。


「ぐあああああああああ! 待て! やめてくれ!!」


「話す気になったか?」


 脚の力を込めたまま周囲の男達を見ると、苦虫を噛んだような表情をしていた。


「わかった! 話す! 話すからやめてくれっ!!」


 そこまで言って漸く脚を手からはなす。そのまま手を抑えて必死に守から離れる姿は、守に恐怖を覚えていた。


(今はとにかく情報を先に得ないとな)


「さぁ、知ってる事を全部教えてもらおうか」


 三日月のように口角が上がっていくのが守自身にもわかる。守は自分でも不思議な程に残虐的な事にも何も感じる事なく、その後も男達から話を聞き続けるのだった。


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