第五話 潜入

「それじゃあ行ってくる」


 夜更け、未羽が熟睡している頃、守はナナコにそう告げる。


「うん。気を付けてね。こっちはうまく説明しとくから任せておいて」


 ナナコは守に抱き着くと、耳元でそう答える。


「もう、離れなさい」


「えぇ~。もうちょっとだけ」


「ダメです」


「ケチ」


 名残惜しそうに離れると、ちょっと寂しそうな表情で守を見つめてくる。


(最近の猛攻が凄い……。だけど、俺には応えられない)


 決してナナコに魅力がない訳ではない。むしろ現役の男子高校生には刺激が強すぎるくらいだった。だが、今の守は普通の高校生ではない。とも言える誓いによって幼馴染を守る事を優先しているからだ。


「ごほん、んじゃいってくるよ」


「いってらっしゃい、あ・な・た♡」


「…………」


 何を言ってもやめる事がないであろうナナコをスルーして移動を始める守。このまま付き合っていたら進めなくなりそうだった。


 上は相変わらず一部に明かりがあり、そこでヒソヒソ話をしているのが下からでもわかる。どこを巡回しているか確認した後、前回と同じ要領で二階へと跳んだ。この身体に慣れたせいか、意識しなくても肌は紫色に変化し、音もなく二階へと移る事に成功していた。


(ここまでは問題なしっと)


 守は予定通り、周囲を警戒しながら死角へと移動する。あとはこのまま朝まで待って二階の住民から情報収集をすれば今回の任務は達成だ。


(朝まで時間があるな……。とりあえず、今、聴こえる会話を拾ってみるか)


 五感が鋭くなったおかげである程度の距離までなら会話を拾えるようになった守は、目を閉じて耳に神経を集中させる。


「明日の――――」「あの女が――――」「眠ったいぜ――――」


 雑多な声が聴こえてくる。そのどれもが大した話ではなさそうだった。


(うーん、イメージ的にはこういう時の方が口が滑ってそうな気がするんだけどなぁ。世の中そう都合よくはいかないか?)


 一時間程度さまざまなところから会話を拾ってみたが、ほとんどが愚痴や、今後への不安ばかりであまり意味のある会話は無かった。集中しているのも疲れてきたところで、ふと気になる会話が聴こえてきた。


「そういや、この前の落とされた女の子、可哀そうだったな……」


「おいおい、その話はするな」


(お、これはもしかして……?)


「他に誰も聞いてないんだし、大丈夫だろ。何か喋ってねぇと眠くて死にそうだ」


「全く、仕方ねぇな。落とされた子ってあの中学生位の可愛かった子だろ?」


「そうそう、ありゃもったいなかったな。もうちょっと大きくなれば綺麗になっただろうに」


(これは未羽の事だな。あれから落とされた人はいなかったし、話してる様子から見ても間違いなさそうだ)


「仕方ねぇだろ。あの方に逆らっちまったんだからな。親子共々、バカだったんだよ」


(親子共々……? そういえば、最初に目を覚ます時に母親を呼んでいたな。にも拘わらず下に来てから母親の話とか全くしてこなかった。何か関係あるのか?)


 男達の会話が気になった守は他をシャットダウンし、聞き逃さないようにその男達だけの会話に神経を集中させた。


「そうだな。いう事さえ聞いていれば、あんな事にはならなかったからな」


「それにしてもあの方は恐ろしいぜ。俺は味方でよかったぜ」


「俺もそう思うぞ。あの方は味方に寛大だからな。敵になったらおっかねぇけど。頭がいいからって三階のお偉いさんから正式に任せられて、それからはやりたい放題だ。まぁ優秀には違いないんだが、あの癖だけは何とか――――」


「おい、巡回の交代時間だ」


「おっと、もうそんな時間だったか。おい、行こうぜ」


「へいへい」


 椅子から立ち上がり、男達は移動を開始してしまったようだ。 


(ふぅ……。さっそく収穫ありだな。さて、さっきの話からすると、おそらくあの方って奴が原因で何人もの人が下に落とされてるんだろうな。あのステーキ屋には複数の肉塊があったし間違いないだろう。あぁ、もうちょっと話を聞きたかったな)


 移動してしまった今、再び周囲に集中しても他愛のない会話しかされていなかった。


(少し休憩して、そのあとに、少し移動しながら届かなかった範囲の会話も拾ってみるか)


 流石にショッピングモールはそれなりに広い為、一か所からでは全てを拾う事は出来なかった。


 溜め息を一つ吐くと、あれほどうるさく感じていた周囲の音が、元に戻った。


(盗み聞きするのはいいんだが、いかんせんうるさすぎるから頭が痛くなりそうだ)


 そのあと、ゆっくり移動していたが、特に収穫は得られなかった。


(まぁ初日に少しでも収穫があっただけよしとしよう。後は朝になって住民達が活動を開始してから紛れ込んでみるか。それまでは隠れてよう)


 周囲に気配がないのを確認し、その場に座り込むと、朝が来るまで息をひそめるのだった。 


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