第三話 未羽の今後

 未羽が落ちてきた日から数日経った。一階は相変わらずゾンビに溢れているので、シャッターを下げた状態にしている。ゾンビ達はシャッターに群がってきているが、それなりに頑丈な為、突破される事はない。みうも最初は心配そうに見ていたが、守とナナコの様子を見て安心したようだった。


 ちなみにあれから毎日化粧をしているので、二人がゾンビだという事はバレていない。


「さて、これからどうする?」


 真剣な表情でナナコと話をしている守。この話題はあれから毎日続いている。


「どうするも何も……。未羽ちゃんも私のようにいっそゾンビにしちゃう?」


「ナナコさんと未羽は状況が違うだろ? それに俺が噛んだとして、未羽がナナコさんのようになるとは限らないよ」


「ちなみに他の人を噛んだ事はないのよね?」


「ないよ。この前も話したけど、噛んだ事があるのはナナコさんだけだ。そもそもあの時だって、ナナコを殺す為に噛んだんだし。ゾンビにする為じゃない」


 守はあの時、間違いなく殺すつもりだった。ただ、噛んだ瞬間に殺すのとは何か違う感覚も感じていた。それが未羽にも同様に起きるのかは不明だ。


「誰にでも起きるのか、それともナナコさんが特別だったのか……。流石にわからないよ」


「私が特別ってところもう一度いい?」


 嬉しそうにくっついてくるナナコにもだいぶ慣れてしまったのか、照れなくなった守。ナナコが近くにいるのが当たり前になってきている証拠だった。


「まもにぃとナナねぇがまたイチャイチャしてるっ」


「えっ?」


 話に夢中になっている間に気が付いたら近くにみうが来ていたようだった。


「イチャイチャしてないよ!?」


「いいでしょぉ~?」


「「え?」」


「イチャイチャしてないよ!」「イチャイチャしてるわよ♪」


「「え?」」


「もう、わかったわかった。仲良しそうで何よりだねぇ」


「ハァ……。んで未羽、どうしたんだ?」


 守はそう問うと、みうはちょっと沈んだ表情になった。


「んとね、二人がいつもちょっと暗い表情で話し合いしてるから心配になっちゃって………。ボク、ホントはいない方がいいんだよね?」


 みうの発言に二人ともすぐ返事が出来なかった。


「二人とも、嘘付けない人だなぁ。まぁ食糧とか一人増えるだけで大変だもんね。うん、ボク、死んでもいいよ」


「ダメだ!」


「けど――――」


「こんな世界になっちまって、人は簡単に命を失うようになった。けどな、生きてる間は足掻くべきだ。俺にはもう肉親はいない。それでも守りたい人はいる。今、俺が頑張れるのはその人達の為だ」


「そうね……。私もそう思う。うん、私だって今生きている理由は大切な人の為だもん」


 そう言いながらススッと守に近寄るナナコ。誰が大切なのか、一目でわかる光景だ。勿論、守もそれが自分の事だとわかっている。守もナナコは好きだ。これがラブなのか、ライクなのか揺れているところだが。そして、そんなナナコがいても、守はそれ以上に守りたい存在がいた。


 幼馴染だ。だが、これはではない。少なくとも、守の中ではだが。そう、これは自分の中での誓いだった。遠いあの日の……。


「そっか……。ボク、生きてもいいの?」


「そうだ。生きろ」


「生きるべきだわ」


「ナナコさん、さっきまでの発言となーにか違う気がしますけど?」


「あら? 何の事? 守ったらもうボケちゃった?」


「あるぇ?」


「アハハハハハハハ! 二人ともおかしいよっ」


 守とナナコの会話に涙を流しながら笑っている未羽。この数日、ずっと悩んでいたのだ。この終末世界において食糧だけでも命と同等の価値があり、それを未羽は返す事が出来ない。せめて守に相手がいなければ……とも考えたが、既に隣にはナナコがいた。同性から見ても魅惑的なスタイルをしているナナコに未羽はとても自分が勝てるとは思えなかったのだ。


「けどまもにぃ、ボクだって二人の役に立ちたいよ?」


 未羽の言葉に守は考える。確かに何もしないというのは今後の事もふまえ、いい事だとは思えなかったからだ。こういった状況で役目があるのは大事だ。自分にも役目があるからこそ、生きる価値があるとも思う事が出来るからだ。それが自信にもつながるし、ここにいてもいいんだって誇りを持って言えるようになれるのだ。


「そうだな。未羽は何か得意な事はないか?」


「ボク? 一応陸上部だったから体力には自信あるよ。長距離走で県大会を優勝した事もあるしねっ!」


 制服を着ていた未羽は、スカートを太ももまで捲し上げ、惜しげもなく鍛えられた脚を見せる。反射的に守がその脚を見た瞬間、頭に拳骨が落ちてきた。勿論、ナナコのだ。


「何するんだよっ!」


「守のスケベっ!」


「ちげーし!」


「何が違うのよ!」


 喧嘩をしていると、未羽がおずおずと守に近づいていく。


「まもにぃ……? ボクにえっちな事しちゃうの?」


「ちょ、おまっ!」


「なんて、うそだよっ。ナナねぇもそれくらいにしてあげて。今のはボクの不注意だったし」


「まぁ、未羽ちゃんが言うなら……」


 ナナコは渋々ながらも許す事にした。原因が未羽なのに、守が許されなければならないという理不尽な状況だ。


「あっと、話が逸れたな。んで、体力に自信があるか……。ちょっと考えてみるから待っててくれ」


「うん、わかったよっ!」


 笑顔で二人から未羽は離れていくと、守は未羽にわからないように溜め息を一つ吐く。


「ナナコさんはあれでよかったの?」


「今でも迷ってる部分はあるわ。けど、未羽ちゃんから死んだ方がいい? って聞かれて守がダメだってはっきり言ったでしょ? 私達ってもう生きていると言っていいのかわからないけど、未羽ちゃんは普通に生きてるのよね。守の言った通り、生きている人は全力で生きるべきだって……。私もそう思ったわ。未羽ちゃんいい子そうだし、死んでほしくないわ」


「あの子はしっかり周りを見ているんだな。俺達が言い争ってるのが理解出来て、それが自分が原因なのが耐えられなかったんだろう。匂いも嫌な匂いは全くしない。普通にいい子だと俺も思うよ」


「えぇ、この前のコックのように敵対しあってるのであれば殺すのも仕方ないと思うわ。全ての人が善良とは限らないし」


「そうだな」


「あ、けど未羽ちゃんをこれからどうするの?」


 ナナコの問いに頭を抱えそうになる守。未羽がこちらをまだ見ていたので悟らせる訳にはいかなかった。


「うーん、まだ時間もあるし、早めに答えを出すよ」


「わかったわ。私も一緒に考える。その為にも未羽ちゃんの事をもっと知らないとね」


「助かる。ありがとう」


「いーえ♡」


 パチッとウィンクをすると、ナナコは未羽のところへと歩いていく。さっそく未羽のところへ話をしに行くようだ。


 それを見送ると、守はその場に座って未羽の事、そして今後の事を思案し始めるのだった。


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