第二話 記憶喪失
とりあえず適当な店に入ってシャッターを閉め、なるべく奥の安全な方を確保する。二人は気にしなくても大丈夫だったが、この女の子は人間なのだ。匂いも普通に生きている匂いがするだけだった。
適当な洋服を布団代わりに引いて寝かすと、二人は少し離れたところで話し合う事にした。予定がいきなり狂ったからだ。
「ねぇ、何であの子を拾ってきちゃったの?」
「捨て猫じゃあるまいし、拾ってきちゃったはないでしょ?」
「そうだけどさぁ、拾ってきたのと一緒じゃない?」
「うっ」
「はぁ……。まぁそんなところも守らしいんだけどね」
「あ、ありがとうございます」
「褒めてな……いえ、褒めてるわ。ふふ、私もそれで助けられたんだもんね。ありがと、守」
「い、いえ」
思わぬ直球パンチにタジタジになってしまった守だったが、気持ちを切り替え、女の子についての話し合いを再開する。
「話を戻すよ。俺が今考えているのは、この子は一旦保護して、上の状況を説明してもらうってのはどうだろう?」
「まぁそれが無難よね。丁度、上の情報が欲しかった訳だし、私も賛成よ。問題はそのあとね」
守が言いにくい事になるだろうから、ナナコがはっきりと考えを告げた。
「そのあと、ずっと保護するのは困難になると思うわ。可哀そうだけど、処分する事も視野に入れたほうがいいわ」
「それはっ!!」
「私だってホントは嫌よ! けど、私達はゾンビだから今の状況でもこうやってのんきに話を出来るわ。けどこの子は違うのよ。しかも上に帰らせる事も出来ない。そうしたらどうするのがいいと思う?」
「わかってる! わかってるけどさ!!」
段々とヒートアップしていく二人。すると、女の子がもぞもぞと動き出してしまった。
「ん……? お母さん?」
女の子が起きた瞬間、思わず二人は固まってしまった。
「あ、お、おはよう」
「え? お、おはようございます? え、ここ、え?」
眠らされてたのか現状を全く把握出来てない女の子にどう説明すべきか迷う二人だったが、その前に女の子が外にたくさんゾンビがいる事に気が付いてしまう。ちなみに奥にいた事で二人の肌の色がよくわからなかった為、ゾンビだという事には気付いていないようだった。
「え? ゾ、ゾンビ!? ここはど――――」
守は、騒がれる前に一度口を抑える。すると、女の子は暫くバタバタしていたが、守の顔を見て漸く落ち着くと、守の肩を叩く。
守はナナコと目を合わせ、ナナコからアイコンタクトで了承を得ると、おそるおそる口から手を離した。
「プハァッ! いきなりにびっくりだよー!」
「しーっ!」
「あ、ご、ごめん。ボク、まだ落ち着かなくてさ、えへへ」
照れたように笑う女の子を見て、毒気を抜かれた二人はひとまず警戒するのをやめた。
「大丈夫だ。こっちもいきなり口を抑えてごめんな。だが見ての通り、近くにゾンビがたくさんいるんだ。一応シャッターは閉まってるが、なるべく物音を立てないように」
「おにいさん、わかったよ」
思った以上に聞き分けがよくて安心した二人だったが、問題はむしろこれからで、現状の説明とこの女の子への対処をどうするか決めなければならない。
「ねぇキミの名前を教えてもらってもいいかな? あ、私はナナコよ。そっちが守。よろしくね」
ナナコは本名ではないのだが、一度死んで以来、新しい自分という意味でナナコを名乗り続けるつもりらしい。
「まもにぃにナナねぇだね。ボクは
「みうだな。それで聞きたいんだが、未羽は何で今ここにいるかわかってるか?」
守の問いに、首を傾げる未羽。あまり今の状況がわかっていないみたいだ。
「えっと、そしたら、未羽ちゃんは今どこにいるかわかるかな?」
「えっと……、ボクがいるのはショッピングモール?」
なぜか周囲を見回して答えている未羽に、守とナナコは首を傾げる。落とされたショックがあったとしても、確認するまで今いる場所がわからないのはあきらかにおかしかった。
守とナナコがその様子に困った表情していると、それに気付いた未羽は頬をポリポリしながら
「実はボク、最近の記憶がないみたい、へへへ。ゾンビがいる状況もわかってるのに、何でこのショッピングモールにいるのかもわからないんだよね」
「……記憶喪失か」
「そう、みたいっ。あ、けど、気にしないで? 別に今のところ困ってないし。それにまもにぃとナナねぇに出会えたから大丈夫っ!」
二人が心配してくれている事がわかった未羽はなるべく明るく振舞う。
「とりあえず、ここは安全だからゆっくり休んでくれ」
お互いに気持ちを整理する時間が必要だった為、一旦話を終え、守は未羽に食糧を渡した。これは何かがあった時用に備蓄として置いておいた物だ。
「え、いいの? 実はお腹ペコペコだったんだっ。まもにぃありがとー!」
「いいんだ。困った時はお互い様、だろ?」
既に生ものは腐っている為、残っているのは缶詰といった保存食だった。普段であればそこまで美味しい物ではない筈だったが、よほどお腹が減っていたのか美味しそうにパクパクっと食べている。
それを横目に守とナナコは少し遠くに移動して今後の話し合いを始めるのだった。
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