第三章 上から降ってきた女の子

第一話 親方! 空から女の子が!

「ねぇ守? これはどういう事なのかしら?」


 表情に変化が出せるようになって以来、今までが嘘のように表情が豊かになったナナコ。今もその表情に変化があり、それを見ていると守も嬉しくなるのだが、今はちょっとそんな事を思っている場合ではない。今のナナコは、頬にぷっくりと膨らませている。ようは拗ねているのである。


「どうって言われても……ねぇ?」


 守が抱えているモノにナナコは困惑を隠しきれていないが、実際のところ守も同様に困惑しているのだ。


 守が今抱えているのは、突然上から降ってきた女の子なのだから……。









 コックとの戦闘が終わってから数日経ち、守とナナコは自分達の変化を話し合っていた。


 主な変化だが、まず、流暢に喋る事が出来るようになった事。身体能力が上がり、五感が鋭くなり、それぞれの力に違いが出てきた事だった。


 もはや、ゾンビと呼んでいいのか不明だが、同じゾンビには襲われず、肌は土のような色のまま。二人の匂いには生きている匂いがせず、死の匂いしかしない事から二人が分類上でいけば、ゾンビになってしまうのだ。


 ナナコはこれまで幾度となく豊かな双丘に手を当て、心臓の音を確認するが、音がした事はなかった。ケガをすれば血が流る事からも心臓の代わりに何かが動いている事は間違いない。だが、それがどこにあってどのように動いているのか確認する方法がない。せいぜい出来るとしたら解剖する位しかなさそうだが、それを確かめる勇気は流石になかった。


 話を戻す。ある程度お互いの事を話した為、次は今後の話になり、守は一階から嫌な匂いが無くなった今、二階の探索を始めるべきだと主張した。


 コックの存在を知るきっかけとなったあの出来事、コックの存在感に忘れられていたが、突然人が落ちてきたのだ。あきらかに異常である。それに嫌な匂いがまだ上に複数いる事もわかっている。


 ここで問題になるのは、今度の相手がおそらく人間だという事だ。二人のような特殊なゾンビの可能性も考えたが、もしそうなら匂いで気付いただろうと二人は考えた。


 そして相手が人間の場合、最初の男や、ゾンビのようにただ殺せば終わりという訳にはいかない。今回は、ここでそれなりの人数が生活をしている。幼馴染を守る為には他の人間の犠牲を考慮するつもりはないが、短絡的にただ殺す訳にはいかない。人は個人では生活出来ず、集団の中で生活をする。それは幼馴染であっても例外ではなく、生活圏の損失はなるべく避けるべきだった。人材も資源も限りがあるのだから。


「ここでもう一度、二階の調査をしたいと思うんだ」


「それは私も賛成だわ。もう一階には用もないし、守はその幼馴染さんを守りたいんでしょ?」


「あぁ」


 守はこの数日間で全てを話した。母親に噛まれてゾンビになった事。なぜか自我が残っていて、一度は自殺も考えたけど、ゾンビに襲われない自分なら幼馴染を守れるんじゃないかと思って行動に移した事。そしてあの出来事から、もう一生会わずにただこれからも幼馴染を守るつもりな事。


 おかしな願望であると守は自覚しているが、変えるつもりはなかった。そしてそれをナナコに認めてもらうつもりもなかった。軽蔑されても構わなかった。


 だが、ナナコは全てを受け止めてくれた。それが守は嬉しかった。


 そして次に考えなければならなくなったのが、二階の調査方法だった。だが、ここは守が暗くなった頃に二階で隠れ、朝とともにしらばっくれて表に出てくればいいと考えた。統率がどの程度されているかわからないが、全員が全員、相手の顔を知っている訳ではない筈だ。幸いにも喋りは普通になり、残る問題は土色になってしまった肌だったが、ここには現役の女子大生がいた。幸いにも一階に化粧品を取り扱っている店があった為、それで誤魔化してもらう事になった。


 方針が決まったところで、一旦別行動をする事になった。守は上に行くのに必要な服(ボロボロの作業着で行く訳にはいかない為)を用意する為にメンズの洋服店へ、ナナコは化粧品を選ぶ為に化粧品店へ向かったのだ。


 そして守が店へ向かっている最中に事件は起きた。その時、守はチラチラと上を気にしながら店へ向かっていたのだが、二階から突然ナニかが投げ出されたのだ。上を気にしていた事でそれに気づいた守。派手にならないようにゾンビをうまく避けながら落ちる前にそれを抱きしめる形でキャッチ。それを誰かに見られたかどうか確認する為に上を見たが、既に投げたであろう人達はそこにいなかった。


(この子が襲われるところを見たくなかったってところか? それとも興味がなかったとか……。まぁどちらにせよ、碌な事じゃない)


 溜め息を一つ吐くと、落ちてきた子を確認する。


(まだ中学生くらいか……?)


 サラリと手から零れ落ちるように流れる黒髪はこんな状況でも頑張って手入れをしてきた証か、手に引っかかる事もなく風に靡いていた。守が余裕で抱きかかえる程度にしかない小柄な体型から、まるで小動物のように感じた守だった。


 幸いにも眠っていた為、騒がれる事はなかった。だが、ゾンビがこの子を襲おうとする為、ゾンビをとりあえず蹴散らしながらその場を離れる事にした。








 そして、ナナコと合流した事で冒頭へと戻る。ちなみにナナコが頬を膨らませていたのはただ単にお姫様抱っこをされていた女の子に嫉妬していただけである。


(あとでどうにかして私も抱っこしてもらおう)


 そう、心に誓うナナコの心情を守が知るのは暫く先になるのだった。


――――――――――――――――――――――――――――


 第三章、開幕しました! ニューヒロインも登場し、話はどんどん盛り上がっていきますので、読者のみなさまに楽しんでいただけたら嬉しく思います!


 そしてここからはいつものお願いです。

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