第十一話 二人の変化
数時間が経ち、先に目を覚ましたのはナナコだった。いつぶりかの睡眠に目をこすりながら目を開けるのと、そこに見えたのは守の顔だった。顔色が悪い為、一瞬死んでいるかと思ったが、呼吸をしているのがわかった為、とりあえずナナコは安心する事が出来た。そして少し冷静になった事で、ナナコは気付いてしまった。
(え、これって膝枕っ!?)
ゴツゴツとしているけど、決して不快ではなかった。頼もしく温かい、いつまでも枕にしていたいと思わせる極上の一品がそこに確かにあったのだ(ナナコ談)。
いつまでも堪能していたいと思っていたナナコだったが、このままという訳にはいかなかった。とりあえず状況確認をしなければどうしようもなかった為、渋々動く事を選ぶ。名残惜しそうに太ももを一撫でし、膝枕を諦めたナナコはゆっくりと立ち上がる。
周囲を確認すると、戦闘の影響でめちゃくちゃになっていた。
そして見つけたのは、あの強かったコックの頭が潰れている姿。最期がどうなったのか記憶が曖昧だったが、必死に戦った事はよく覚えていた。そして自分達が生きていた地点で、守があのコックを倒した事もなんとなくわかっていたので、コックの死体を見ても驚く気持ちはなかった。
(そういえば私、お腹に穴が……)
コックの死体を見た事で刺されていた事を思い出し、刺された部分を触ってみると、不思議な事に傷口が完全に塞がっていた。むしろ初めから傷なんかなかったと思う程に綺麗で、刺された事がまるで嘘のように感じられる程だった。
(よくわからないけど、きっと守のおかげだ)
段々と記憶が戻ってくると、思い出すのは守への最期の言葉。確かにナナコは死を覚悟していたのだ。
「また守に命を助けてもらっちゃった……。ってあれ?」
そこでナナコは自分に起きている変化に気が付いた。
「喋り方が滑らかになっている」
ナナコは思わず、自分の顔を触ってみる。そこで更に驚くべき事に気付いた。今まで表情を変える事が出来ず(守にはどんな表情だったがバレてたが)無表情だった顔の表情が、人間に戻ったかのように普通に動かせるようになっていたのだった。
「これもきっと守のおかげだよね。そうに違いないっ。うんうん」
ゾンビになってからずっと気にしていた事が改善された事に嬉しくなり、思わず守の胸元に抱き着く。何も考えずに抱き着きに突っ込んでしまった為、そのまま守を押し倒してしまった。
そんな些細な事など気にせず、スーッと胸いっぱいに息を吸うと、守の匂いがナナコの中で満たされ、心がポカポカしてくる。涎が出そうになるのを抑えながら守を堪能していたナナコだったが、ふと眠っている守の顔を見たところで次なる欲望が湧いてきた。いや、きてしまった。
(お礼がしたいな……)
これは決して私の欲望ではなく、単なるお礼だ。うん、お礼なんだからいいよね? と自分に言い聞かせ、優しく守の頬を撫でる。
「うわぁ……意外と柔らかくて気持ちいい。ふふっ、こうやって見ると子犬みたい」
戦っている時はまるで鬼のように強い守も眠っている時は年相応だった。普段でれば眠る必要もない二人が寝る事はまずない。目をつぶっていても、眠っている訳ではないし、警戒しているせいかこんなに無防備な姿を見る事は今までなかったのだ。
じっと見ていると、どんどんナナコの顔が赤くなっていく。
「……今しかないっ」
ナナコは人差し指で自分の唇を触った後、守の唇を凝視し、周囲をキョロキョロしてからゆっくりゆっくりとナナコの顔と守の顔を近づけていく。
(守の呼吸が聴こえてくる、やばっ)
もはや、ナナコ自身が何をしているのかわからなくなっていたが、ここまできたら止まる事は無理だった。
そしてあと数センチで触れようとしたその時――――。
「んあっ?」
「ひゃっ!?」
守の声に驚き、飛び跳ねるように離れてしまうナナコ。
「くぅ、あと少しだったのにっ」
「……ん? ナナコさん、何があと少しだったんだ?」
ナナコの言葉に反射的に質問した守は、頭を傾げてナナコを見る。
「えっ!? いや、何でもないのよ? うん、なんでもなかったから。あははははは」
流暢に日本語を話すナナコに一瞬驚いた守だったが、遅れて自分自身も流暢に話す事が出来ていた事に気付き、自分自身にも何か変化があったのだろうと推測した。
「そうか、まぁ何でもないんだったらいいんだ」
とりあえず追及してこない事に安堵したナナコだったが、このままでは話がしにくいと感じ、守に提案をする。
「ねぇ……? とりあえず、どこかに移動して話をしない? さっきまで私達眠ってたみたいだし、落ち着いたところで少し話を整理したいわ」
そう、こんな荒れたところではなく、どこか落ち着いたところで今後の事を話し合う必要がある。先程までの事を蒸し返させないように、話題を変える訳では決してない。
「そうだな。とりあえず目的も達成出来たし、ここを出よう」
妙にさっさと追い出そうとするナナコに押されながら、振り返るように頭の潰れたコックを守は最後に一瞥した。
「…………」
「ほらほら、いくよ!」
「あぁ……」
この時、守が何を思っていたのかは誰にもわからない。ナナコにそのまま押されてしまっていた為、前を向くと、今度は勝手にスタスタ歩いて行ってしまう。
「ちょっと待ってよっ」
「ハァ……。隣にどうぞ?」
「えっ? あっと、う、うんっ!」
テコテコと小走りで走って守に追いつくと、そのまま二人揃ってステーキ屋の外へと向かっていくのだった。
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これにて第二章終幕です。ここまで読んでくださった読者様、誠にありがとうございます。新しいヒロインはどうだったでしょうか?
そしてここからは毎度おなじみのお願いです!
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それでは次の第三章もよろしくお願いします!
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