第五話 探索
「イッカイハ……、ミオワッタナ」
「ウン」
嫌な匂いのするステーキ屋はシャッターが閉じられていたので遠目から確認するだけにしておいた。すぐに侵入するつもりはないし、こんな状況であれば、上の階にいるであろう幼馴染まですぐに危害を加える事は出来ないだろう。よって、一旦放置する事に決めたのだ。
そして歩き回っている間に気が付いたら夜だった。若干の騒がしさのあった上の階もどうやら夜になると静かになるらしい。ソーラーパネルが設置されているとはいえ、無駄な電力を使う余裕はないのだろう。ほとんど真っ暗だった。
(夜中の寝静まった頃に一度上を見てみるか……?)
チラリとナナコの方を見ると、それに気づいたのか、ナナコのしがみつく力が強くなり、子犬のような表情(無表情)で守を見てくる。
なぜか無表情の筈なのに守にはナナコの感情の変化変がわかるらしい。
(可愛い。って違う、違う)
「ナナコ、アトデウエヲミニイク。ココデマッテテクレ」
そう言われ沈んだ表情になったナナコだったが、守ほど俊敏には動けない事もわかっている為、渋々従うようだ。
「ワカ……タ」
「アリガトウ」
(動き出すのはもっと寝静まったあとだ)
それまでは嫌な匂いから離れ、目立たないように隠れて過ごすことにした。
時刻は夜中の三時。聴こえてくるのはゾンビの呻き声と、わずかに漏れる明かりに集まっている人達のヒソヒソ話だけだ。
(さすがに寝ずの番くらいいるか)
何かしらのトラブルがあって一階と二階の間の防火扉が突破でもされれば間違いなく逃げ場のない上は全滅する事になるだろう。これくらいの予想は守もしていた。トラブルを未然に防ぐにはこれくらいは当たり前の事だからだ。
(いざって時は……幼馴染を守る為には決断しなければならない時もあるかもしれない)
防火扉を見て、よぎってしまう最悪の選択。その判断を下す事はなるべく避けたいが、どうなるかはわからない。一階の嫌な匂いよりひどくはないが、上にも嫌な匂いが複数箇所でするのだ。
欲望を隠しているだけならまだいい。それがもし上に立つ人間だった場合、幼馴染に危険が及ぶ可能性がより高まってしまう。
(とにかく一度見てみないとな)
「ヨシ、イッテクル」
「ウン」
守がすっと立ち上がると、心配そうな顔でナナコが守を見てくる。守はそれに気づくと、安心させるようにナナコの頭を一撫でし、ナナコから離れた。
(人の気配がない場所に跳ぶか)
脚に力を入れると、両脚の肌の色が紫色に変化していく。
(あの時の感覚を思い出せ)
怒りに狂っていたあの時、守は尋常ではない力を手にしていた。理屈はわからない。だが、幼馴染を守る為にもこの力を使いこなせるようになる必要があった。
集中していると両脚はより硬く、そして強くなっていくのがわかる。
(行くか)
なるべく静かに跳んだ守は、そのままの勢いで二階の手すりに掴まった。気配から人がいないのもわかっていた為、特に周囲の様子を見る事もなく、そのまま降り立った。
周囲を見てみると、どの店舗にもシャッターが閉めてあり、その中で生存者達は眠っているようだった。
(万が一の時に、生存者を守る為にあるんだろうな。……あとは、夜中に勝手な行動も出来ないようにする意味もあるかもしれない)
こういった避難所であまり束縛すると反感を受けるが、ある程度の統率をとるには、規則も大事になってくる。
(今日は出来たらるぅの場所を確認して、あと余裕があったら嫌な匂いがする場所を把握しときたいな)
とりあえず、二階に幼馴染の匂いはなかった。二階に上がった事で匂いに近づけたのか、漸く幼馴染の匂いを把握出来たようだ。
(見張りにバレないように全フロアを探索するのは容易じゃないな。しかも起きている人間もいるみたいだし。まぁ気持ちはわかるよ。常にゾンビの呻き声は聴こえてくるし、もし何かがあった時、先に襲われるのはこの二階だもんな。二階から三階への階段にもおそらく防火扉はあるだろ。うーん、となるとお偉いさんは更に上か?)
流石に匂いではどの人が偉いのか偉くないのかは判断出来なかった。遠目から雰囲気で判断していくしかないだろう。
(まぁそんな事より先にるぅの居場所だ。先に三階に行くか)
逸る気持ちを抑えきれず、再び両脚に力を込める。先程よりスムーズに脚を変化させると今度は三階へと跳んでいくのだった。
(やっぱ三階にいたか……。るぅ)
三階に来た事でおおよその場所を把握する事が出来た。あとは直接確認すれば、守としては満足だった。
(よし、向かうか)
歩きだそうとしたその時――――。
「おい、そこのお前。止まれ」
守は完全に警戒を怠っていた。その結果、後ろから声を掛けられてしまう。守が振り向くとそこにいたのはナイフを持った男だった。明らかに守を警戒するように見ている。
(やっちまったな……)
少しずつ守へ近づいてくる男に対し、守はどうするか必死に考える。
(こんなところで戦う訳にはいかない。俺がゾンビである事もバレたら終わりだ)
殺すどころか大騒ぎにすらしてはいけない。いい方法が思い浮かばなくても相手は待ってくれない。
「おい、答えろ」
男のナイフに力が入っていき、お互いの緊張が最大に高まったその時──。
「その子は私の知り合いだ。許してやってくれないか?」
突然の声に振り向くと、そこにいたのは守にとって思いがけない人だった。
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