第三話 守の目的とナナコの目的

「ふんふふんふんふんふ~~ん♪ ふんふふんふんふんふ~~~ん♪」


 ショッピングモールにあるとある一室。一人のコックが気持ちよさそうに鼻歌を口ずさんでいる。


 ジャリ……、ジャリ……。


 男の手元にあるのは砥石で鋭く研ぎ澄まされた一本の肉切り包丁。男が軽く刃に指をあてると、スッと一筋の切り傷が出来た。


「ぐふふ、ぐふふふふふふ」


 ぷっくりと滲み出てきた自分の血を美味しそうにペロリと舐めた。そして、包丁の切れ味に満足すると、男は厨房の奥に閉まってあったをまな板の上にドンッと置いた。


 その肉は、たまにだ。ゾンビに持ってかれる事もあるが、タイミングが合えばそれなりの量を持ち帰れる事も多い。冷蔵庫は一応使えるが、バラバラにしてからそれなりに日にちが経ってしまっている為、状態は決して良くない。スーパーであれば半額シールが貼られるような品質だ。今のところ、同じような肉であればいくらでも調達する事は可能だ。しかし、この男の欲望はそれだけでは満足出来ない。


「ぐふふ、もっと新鮮な肉が欲しいなぁ。むしろ生きたままの……ふひっ」


 (肉っ!)ダンッ! (肉っ!!)ダンッ!!


 そう恋焦がれながら力強く振り下ろされる包丁は、どんどん肉塊を切り刻んでいく。涎を垂らしながら嬉しそうに切り刻んでいくその姿から、男の欲望に対する我慢の限界が既にすぐそこまで迫っているのだった。










「ヤットツイタ」


 目的地にたどり着いた守は、現地の状況に思わず苦々しい表情になってしまった。辿り着いた場所はとあるショッピングモール。三階建て、スーパーから家電ショップ、アウトドア商品までここでなら大抵の物が揃うだろう。しかもここではソーラーパネルが設置されている為、最低限の電気を使用する事が出来る。


(避難するにはうってつけの場所って事だな。生きている匂いも今まで歩いてきた中で一番多い。だが人が多いという事は……)


 それだけいい人間も悪い人間もいるという事だ。守がナナコの方を振り向いてみると、ナナコも露骨に嫌そうな顔をしていた。どうやらナナコにも感じとる事が出来ているようだ。


(あの時の男より、更に嫌な匂いが複数あるな……)


 本来であれば近づくべきではない場所。だが、既に駐車場には幼馴染が乗っていたマイクロバスが乗り捨てられたかのように放置されている。ショッピングモールの中に幼馴染の匂いがする為、逃げる事も出来ない。


 守とナナコは意を決して一歩踏み出した。


 お互いに正反対の方向へ。


「「エッ?」」


 ここにきてナナコ、初のしっかりした? 言葉である。お互いに驚愕の表情をしている。


 なぜこのような違いがあるのか、そこには二人の目的の違いが原因だった。守の目的は『幼馴染を守る事』だ。直感に従い、ナナコを助けた事もあった。だが、基本的には幼馴染が最優先であり、目の前で自分の命と幼馴染の命のどちらか選ぶなら迷う事なく幼馴染を選ぶ。


 それに対し、ナナコは守が何か目的があるのは知っていても、それが具体的にどんな目的なのかを知らない。目的がわからないのでナナコの中では、わざわざ危険に飛び込む理由がないのだ。そんな事をするくらいなら守と適当な空き家でイチャイチャしてる方がよっぽどマシだと思っている。


 守にとって誤算だったのは、ある程度であれば感覚で通じ合えてしまった事だ。それにナナコならなんとなくついてくるだろうと曖昧なまま、進んでしまったのもいけなかった。


 仕方なくナナコを置いてそのままショッピングモールへ進もうとすると、ナナコは慌てて守の袖を掴んだ。そしてするするっと近づき、守より頭一つ分身長の低い事を生かして、目をうるうるさせながら上目遣いで懇願した。


 置いて行かないで……、と。


 その心情を瞬時に悟った守は、溜め息を一つ吐く。そして真剣な表情になって、ナナコの目を見た。


「オレ、ルゥヲマモリタインダ。ソノタメニココマデキタ。ナナコハドウスル?」


 ルゥという名前が気になったが、それより先に答える事が大事だと思ったナナコは、すぐさまその答えを出した。


「イ……ク」


 守にとって幼馴染が全てであるようにナナコにとって守が全てだ。離れるなんて選択肢はない。


 守はすぐに穏やかな表情に戻り、ナナコの頭を軽く撫でると、再びショッピングモールへと歩き出した。


(む、不意打ちなんてズルい……)


 気丈に振舞って半歩後ろを歩くナナコだったが、その顔は赤らめてしまっている。幸いにも守が前しか見てなかった為、気付く事はなかったが。


 複雑な気持ちに今度はナナコが溜め息を一つ吐いた。だが、すぐに気持ちを切り替えると、前を歩く守の隣に向かって力強く歩き出すのだった。


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