第十三話 それでも俺はるぅを守る

 呆然と立ち尽くす幼馴染を見て、守は決意を固める。ここで俺は決別すべきだ……と。


 再び幼馴染に背を向けて歩き出す。周囲にはまだゾンビがそれなりに残っている。守はバールを両手に持ってかまえると一番近くにいるゾンビに向かって走り出した。


「ガアアアアアアアアアアア!!」


 こちらに襲い掛かってくる事はないゾンビ達。はっきりいえば、守に危険はない。だが、それは守だけが安全なだけで、清華家の人間は依然、危険なままだ。


(やるなら徹底的に)


 そこからは返り血などものともせず、より凄惨に、ゾンビ達を処理してきた。処理したゾンビの中には先程いた殺した男達、裸の女性のゾンビも含まれていた。幸いにも女性ゾンビの最期の姿は、復讐が出来て満足したのか安らかな表情をしていた。むしろ復讐を達成した事で殺される事をむしろ望んでいるようにまで見えた。


(誰だって人間を襲いたくないよな)


 ここにいるゾンビ達の中には、ひょっとすると自我が多少なりとも残っているゾンビがいるのかもしれない。だが、自我があろうがなかろうが、今の守には関係ない。幼馴染を襲う可能性のあるゾンビは全て処理するのみだ。








 たった数十分後、たったそれだけの時間でそこは地獄となり果てていた。足場もない程に転がっている肉塊達は全てゾンビであったモノだ。その真ん中に一人だけゾンビが立っていた。


 それは勿論、守だ。もはや元の色がわからない程に返り血を吸った作業服に曲がってしまう位に使用されたバールをプラプラさせながら周囲を見回していた。


(これで周囲にいるゾンビは処理出来たか)


 幾千といるゾンビを処理しても守の感情に一切の動揺はなかった。確かに守には感情がある。だが、『』という感情に勝るものを今の守は持っていなかった。


 すっかり静かになった状況で、ふと後ろから車のエンジン音が聴こえてきた。後ろを振り向くと、正門から一台のマイクロバスが走り出した。守を轢かんとする勢いで走りだしたマイクロバスを守は危なげもなくサイドに避けて、乗客を確認した。


(よし、るぅも無事乗ったな)


 幼馴染の乗っマイクロバスはさっきの男達の装甲車に勝るとも劣らない改造車だった。防弾ガラスだけではなく、車にぶつけられた程度ではびくともしない装甲。天井にはソーラーパネルが搭載していて、緊急時にはそれで走行する事も可能な代物だ。


 このマイクロバスの存在を知っていた守は、ひとまず安堵した。


(これでひとまず安心だ)


 そしてふと思い浮かんだのは幼馴染の最後の表情だった。守の決意を固めさせたあの表情。守は幼馴染にあんな表情をさせたくなかった。そして二度とあんな表情をさせないようにする為には、守自身の恐ろしさを見せつけるしかなかった。


(たとえ自我があっても俺はゾンビだ。もう、るぅとは一緒にいられない。だからこれでいいんだ。俺はるぅさえ無事でいればそれで満足なのだから……)


「ルゥ……」


 気が付いたら周囲が夕日に染まっていた。守を照らすその姿は儚く、そして美しかった。


 共に歩む事は出来ない。だけど、遠くから守る事は出来る。そう決意を胸に守は再び歩き出すのだった。


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