第七話 悪夢の始まり

 ガチャッ。


 とある豪邸の一室を開けると、そこでは、むせかえるような性の匂いが漂っていた。


「…………」


「おら! もっと声出せ!!」


 全く反応のない全裸の女と、ただ性を吐き出すために腰を振っている太った男。そしてそのベッドの周りには同じく全裸の女が数人。その姿は元気がなく、床にぐったりと横たわっていた。


 部屋を開けた張本人であるこの豪邸の執事は、その光景を見ても特に表情を変える事のないまま主へと近づいていく。


「旦那様、死体の処理が滞りなく完了いたしました」


「ごくろう」


 そう言うと、目の前の女を捨てるようにベッドから蹴り落とした。


「最近の若者は軟弱で困るな。張り合いがないわい」


「さようですな」


「それにしても、ぎゃーぎゃー騒ぐだけで、黙らすのにちーーーっと首を絞めたら死におって。タダでこの家に匿ってやったのに、恩返しどころか恩を仇で返しおったわ」


 そう、ここにいる女達はこのゾンビパニックが起きた際に避難させてもらった人達だった。ちなみにその中には男もいたが、もうとっくに外にいるゾンビの仲間入りをしている。


 この男は、番組の大物プロデューサーで、仕事場でもいつも偉そうにしていて、同業者から嫌われ者だった。しかも、女好きでしょっちゅう女優だの、タレントに手を出すようなまさに絵に描いたようなクソ男だ。


 涎を垂らしながら昔、抱いた女の事を思い出していると、執事が一人の女に近づいていた。


「こちらのレディーもそろそろ危ういかと」


 この部屋に連れ込まれた女達は、風呂はおろか、食事も碌に与えていないので弱っていくのも当たり前だった。今にも衰弱死しそうである。


「こいつもか。万が一ここでゾンビになってはかなわん。例の部屋に閉じ込めておけ」


「かしこまりました」


 そう言うと、執事は衰弱している女を抱え、主に頭を下げながら部屋を出て行った。











 それから三日経ち、衰弱していた女がついに死んだ。


「おい、ゾンビになる前にまた処分してこい」


「かしこまりました。おい」


 執事が二つ手を叩くと、先日も死体を処理した三人が現れる。


「お呼びですか?」


「例の部屋の処理を」


「「「はっ」」」


 死体の処理を頼まれても表情一つ変える事なく出ていく三人。それを見送る事なく、主の後ろにつく執事。


「これからどうなさいますか?」


 執事の問いに、男は暫く考え込む。


「女も食糧もそろそろ危ういか? ……そうだ! 清華の家で食糧を願ったらどうだ? あそこは自分達で食い物を作ってる事をわしは知ってるからな。それなりに余ってるだろう。甘い奴らだからわしが頼めば断れなんだろう。よし、そうと決まったらあの車の準備を頼むぞ」


「かしこまりました」


「ついでにあそこの娘もいただきたいものよのぉ。名家に恥じぬ、美しい娘だったわい」


 下半身をいきり立たせながらグラスに注いである酒を飲み干す男。


「さて、その前にあいつらがきっちり処分をしているか確認するか。わしが見なければすぐにサボりおるからな!」


 酒に酔ってるのか、自分に酔ってるのか、若干ふらふらしながら窓へと近づいていく。そして窓にたどりつくと、酔った勢いでカーテンを半分くらい開けた。


 外を眺めてみると、そこではちょうど男達が死体を捨てる為に、正門の鍵を開けるところだった。


「おうおう、やっておるな。それにしてもあいつらもそろそろ飽きてきたな。そうだ! 今度ゾンビに追いかけっこをさせてみよう。こりゃ数字がとれるぞ!」










 男が高笑いをしていたその時、正門ではちょうど死体を投げ捨てたところだった。そしてあとは閉めるだけ。いつものように正門を閉じようとした瞬間、突如、鉄パイプが閉じかけていた門の柵の隙間に突き出された。門がこれ以上動かなくなり、更には鉄同士がぶつかる音が鳴り響き、ゾンビ達がこちらに気付いてしまう。


 慌ててその棒をどかそうとするが、強い力で押さえられているのか、ビクともしなかった。


「お、おいこりゃどうなってんだ!!」


 今更慌てても遅かった。音に反応したゾンビ達が正門の方へ歩き出している。男達は逃げ出すしかなかった。


(さぁ、悪夢の始まりだ)


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