第六話 観察

 匂いの原因になっている家はここか……。その家も勿論豪邸だったが、幼馴染の家とは趣が全然違う。


 幼馴染の家は昔からの日本家屋と言えばわかるだろうか、趣があって和を尊ぶ、上品で穏やかな空間だった。だが、この家は違う。所謂、成金が贅を尽くした、見方によっては下品な家だった。


(間違いなく、この家からだ……)


 これだけ近づけばどれだけの悪臭を放っていたのかがよくわかる。よくこんなところで暮らしていられるもんだ。守は鼻をつまむのをこらえながら家に近づいて行った。勿論、周囲にはゾンビをお供に連れて。


(こんなところで万が一があるのは怖い。護衛もいるだろうし、攻撃される可能性もあるからな。そこらへんにいるゾンビと一緒の方が安全だ)


 実際に近くにゾンビの死骸がそこかしこに散乱していた。おそらく襲いかかろうとしたところを返り討ちにされたのだろう。これだけゾンビがいて、一度襲撃されたにも関わらず今現在ゾンビに襲われていないのが不思議だ。


 守と同じであればゾンビ達は匂いで判別している筈だが、ここにいるゾンビ達は匂いにそこまで反応していない。今まで歩いてきた中で見た感じだと、むしろ目と耳で獲物がどこにいるか探しているみたいだった。


(ゾンビにも得意、不得意があるのか?)


 まぁコミュニケーションが取れない為、確認のしようがない。


 気持ちを切り替えると。正門から見える豪邸の中をゆっくり歩きながら覗いてみる。カーテンがほとんど閉まっている為、中を確認が出来ないが、時折カーテンが揺れているのでこっそり外を確認しているのだろう。


(……どちらにせよ


 この家の人間が死ぬだけなら構わないが、万が一にも幼馴染の家に被害が及んだら困る。嫌な匂いがした地点でこの家は敵でしかない。


 どこか隙間はないか、豪邸の周囲をゆっくり、ゆっくりと一周、二周と回り続ける。自我の無いゾンビでは突破出来なかったとしても、守のようなイレギュラーであれば突破出来るであろう、わずかな隙間を見つけ出す為、日が暮れても、雨が降っても、守は歩き続けた。


(それにしても、これだけ歩いても空腹がない。そして疲れない)


 人間から見たら最悪な事でも、守からすればこれほど助かる事はない。更に、歩き続ける事で段々と動きもスムーズになってきているので一石二鳥である。今の守なら軽く走る程度は出来るようになっていた。


(幼馴染の家は災害用の備蓄が豊富にあった筈だ。発電機もあるから電気も暫くは大丈夫。確か敷地内に家庭菜園もやってたし、一緒に暮らしている人達も善良な人達ばかりだった。るぅは大丈夫だ。るぅは大丈夫だから、先にこっちを片付けるんだ)


 目と鼻の先に幼馴染の家がある為、気持ちが高ぶっているようだ。守の最大の目的である『幼馴染を絶対守る』が無ければとっくに突入していたであろう。今、目の前の家のような嫌な匂いが無いのも安心材料となっている。


 守は、何日も何日も辛抱強く歩きながら待ち続けた。日を追うごとに豪邸内の嫌な匂いは増していっているので、中で何かが起きているのは想像に難くない。


 そして守が歩き始めてから五日目、ついに豪邸内で動きがあった。


 豪邸の裏口らしきところからこそこそと外に出る男が三人。その内、二人が何かを運んでいた。壁沿いにすぐ移動してしまったので今はもう見えないが、途中まで見えたそれは、どこからどう見ても死んでいるであろう全裸の女性だった。様子から見た限りでは、中で暴行され、そのまま殺されたのだろう。嫌な匂いの原因のはこれのようだ。


(この匂いはあの女に付いた体液の匂いだったのか? いや、違うな。どちらかといえば欲望とか、憎悪とか、人の負の部分に反応している気がする。それにしても胸糞悪い。それに中にある匂いは殆ど減っていない。まだ被害にあっている人がいるんだろう)


 魔の手が万が一にも幼馴染に及んだらと考えると、今すぐにでも乗り込みたくなる衝動に駆られた。だが、そんな事しても無駄なので我慢する。


(それにしても死体をどうするんだ? 埋めるのか? いや、万が一ゾンビになる事を考えると外に捨てたい筈だ)


 男達の様子をよく観察していると、三人目の男が何かを外に投げた。


 ババババババッバン!!


(爆竹か?)


 するとその音に反応してゾンビ達が歩き始めた。そして爆竹を投げた男が素早く走り出し、反対側にある正門に手をかける。それと同時に、死体を持った男達が正門の前に出てきた。そして手薄になったところで正門を開け、死体を投げ捨てると正門の鍵を再び閉め、慌てて先程の裏口に戻っていった。豪邸内を見ると、カーテンの隙間から外を見ている男がいた。おそらく奴が、この豪邸の主なのだろう。


(これならいけそうだ)


 多少の準備は必要だろうが、これなら問題ないだろう。頭の中で計画を立てると、死体に群がるゾンビ達を尻目に、守は行動を開始した。


――――――――――――――――――――――――――――


 もし、少しでも面白かった! 応援してもいいよ!! って方いましたら、フォロー、応援、☆評価をよろしくお願いします。


 評価される事、それが何より執筆への励みになります。今後も精一杯面白くなるよう頑張りますので、是非、よろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る