第五話 幼馴染の家と嫌な匂い

 グシャ!!


 晴れ晴れとした空の下、守はゾンビの頭を踏み抜きながら歩きだしている。目的地は幼馴染の自宅だ。


「ゴギャッ!!」


 また一人、ゾンビの頭にバールが振り下ろされる。そして倒れたところを安全靴で踏みつぶす。もう既に数えきれない程の数のゾンビを葬ってきた。


(るぅを守る。守る為には手際よく、迷わず……正確に)


 そう、守は歩きながらもゾンビから幼馴染を守る為に訓練しているのだ。そこにゾンビに対する哀れみの感情はない。ただ、幼馴染を守る為に必要な事だからと、作業のようにこなしているだけだった。


 こうしてジェノサイドしながら、進み続けている訳だが、ここで守は自分の身体の異変に気付いた。


(なんか少しだけど動きやすくなってきてる?)


 パッと見た限りでは今までとほとんど差はないが、本人になんとなくわかる程度に段々と動けるようになっている。それがこの身体に慣れてきているのか、それとも他の原因があるのかはわからない。だが、今の守にとってその原因は重要ではなかった。どんな方法でもいいから幼馴染を守りたい、その為には戦う力がいるのだ。


 今のところ戦っていればより早く動けるようになるのがわかった為、より積極的にゾンビをジェノサイドしている。ゾンビには迷惑な話だった。








 そんなこんなしている内に、数日かけて幼馴染の家に辿り着いた。守は幼馴染にバレないように隠れながら家を見上げる。目の前に見えるのは一言で言えば豪邸。


 そして守が家にさえいれば暫くは平気だ、と言っていた理由が目の前にあるこれだ。正門と裏門を抜かせば家全体を囲う三メートルにもなる高さの塀。本人曰く、ミサイルを撃ち込んだとしても壊れない程の強度らしい。そして穴になりうる正門、裏門も隙間のない頑丈な鉄で出来ている。ゾンビがたとえ百人や、二百人一気に押してもびくともしない造りになっている。


 守は、匂いで中に幼馴染がいる事を確認するとひとまず安心した。


(とりあえず無事だな。本当によかった……。よし、中から死の匂いも感じないな)


 死の匂いとはゾンビの匂いだ。最初はわからなかったが、ゾンビをジェノサイドしている内に鼻に染みついてきたのか、なんとなくわかるようになった。今、守は全神経を集中させて匂いを嗅ぎ分けて確認していた。


(だが、外からの匂いがあまりよくないな……)


 都内の一等地にある幼馴染の家の周囲は、同じようにそれなりの防犯が出来ている為、生存者が多いようだ。それ自体が悪い訳ではないが、問題は、その中に嫌な匂いが混ざっている。ゾンビの死の匂いとは違った、もっと鼻が曲がるような匂いだ。


(何か起きる前に来れてよかった)


 とりあえずこの嫌な臭いがする場所に行くとしよう。


 最初はバールを握りしめていたが、さすがにここまで生存者が近くにいる状態でゾンビをジェノサイドすると目立ってしまう。それは不本意である為、守は溜め息をはくと、仕方なく、他のゾンビの歩調に合わせて目的地へと向かうのだった。


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