第四話 ホームセンター

 『ホームセンター』


 大抵の物であれば手に入る便利なお店だ。そう、特にこんなゾンビが溢れる世界ではバール一本あるだけでも途轍もない価値がある。


 だが、そこに辿り着くまでにはたくさんのゾンビを相手にする必要がある。しかも無事辿り着いたとして、そこに求めている物資があるかどうかも保証されていないのだ。


 そんなさながらダンジョンのような場所である『ホームセンター』の中をダンジョンの主かのように颯爽と歩いている男が一人いた。


 そう、守だ。匂いで生存者がいない事を確認済みである為、誰の目も気にする事なく、店内を物色していた。


(まずは俺の武器だ)


 守る為には武器が必要だ。今のところゾンビに襲われる心配のない守だが、それがいつまで続くかもわからない。さらに言えば、相手がゾンビとは限らない。武器を持っていて得はあっても損はないだろう。


 そして、ここには農機具、工具、調理器具等、武器となりそうな物がたくさんある。


 今まで碌に喧嘩もした事がない高校生にどの武器が合うのか選ぶのは難しい。ここは一つずつ、試していくしかない。そう思い、守の半分ほどの長さのハンマーを持ち上げてみる。


(思ったより重く感じないな……)


 動きは遅いが、力が増している分、それ程苦労する事なくハンマーを持ち上げる事が出来た。


 ブォン!!


「ギャッ!」


 目の前にいるゾンビの頭部に一撃を加える。すると、当然ながら赤黒い血とミソが飛び出して辺りに飛び散ってしまう。それを、ハンマーと倒れたゾンビを交互に観察する守。


(一撃でゾンビを倒せるのはよさそうだが、複数を相手にするには扱いにくいか? それに力があるとはいえ、反動が強い。パスだな)


 ハンマーを捨てると次の得物を手にしてゾンビに向かって近づいていく。ゾンビにとって、地獄の始まりだった。








(これが一番俺には合いそうだな……)


 辺り一面には頭部がぐちゃぐちゃになったゾンビの死骸にそこらじゅうに投げ捨てられた血だらけの工具、農具、調理器具が散らばっていた。そして数多の犠牲の上で決定した武器はこれだった。


『三徳釘〆』


 所謂、バールだ。普通の平バールと違うところは、片側の先端が釘抜きだけではなく、ハンマーのように平らになっている事だ。平バールと違い、ハンマーとしても扱える為、守は使いやすいだろうと判断した。ハンマーを別で用意するか考えたが、あまり荷物を増やしたくなかった為、このような形で収まったのだ。


 バール自体は、得物の長さが三十センチとやや小さ目だが、鉄製である為、簡単に壊れる心配もない。


 ゾンビを相手するのに叩いてよし、反対側で突いてよし。守は格闘技を習っていた訳でもない素人なので、シンプルに扱えるのが一番だった。


 返り血で真っ赤になってしまった元の服を捨て、作業着に着替え、腰ベルトには三徳釘〆を三本さしこまれている。あまりたくさんあると動きにくい為、両手で使う用の二本と、落とした用の予備に一本を携帯する事にしたのだ。


 そして背中にはリュックを背負っている。中身は災害時用の食糧や、生活用品が詰め込まれている。幼馴染にタイミングさえ合えば渡すつもりだった。まだまだホームセンターの中には物資がいっぱいあるが、持てる物には限界がある。またくればいいのだから、とあっさりホームセンターを後にした。


(これで準備万端だ)


 幸いな事にゾンビ達が反撃してくる様子はなかった。


(これで幼馴染を守る事が出来る。るぅ……待ってろよ)


 守は、幼馴染の家に向かって、ゆっくり、ゆっくりと歩き始めた。


 これは余談だが、その後、このホームセンターに生存者が訪れた事があった。最初、あまりに少ないゾンビの数に首を傾げていたが、大量に頭部が破壊されたゾンビの死骸とソレに使われていたであろうモノを見て、恐ろしくなって逃げ出したそうだ。


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